*サクラ花火短編集(小)*
□【其ノ八】牢獄に飛ぶ鳥
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獄での俳句大会も終わり、夜がふけた頃
杉と志乃は牢越しに語り合っていた。
「楽しかったですね、俳句大会!!」
「ふふっ…はい…。」
自然と笑顔を見せた志乃に、杉も嬉しそうに笑った。
「でもなぜ…私が和歌をやっていると分かったのです…?」
「その手…。」
「え…?」
「女性でそこまで指にマメが出来るなんて、筆をいつも握っていた証拠でしょう?」
杉の言葉に志乃は思わず自分の手を見つめた。
「いつの間に…。」
「三味線かなぁとも思ったんですが…当たって良かった!!」
「三味線…それも正解ですよ。」
志乃はそう言うと、一瞬表情を曇らせた。
「志乃さん…?」
「…そ…それはそうと、あなた様のようなお方がなぜ二度も投獄など…?」
「私ですか?一回目は密航がバレまして…二回目は老中暗殺の為の武器借与を申し出たら捕まっちゃいました…アハハ…。」
困ったように笑う杉に、少し驚きながらも志乃も思わずふきだした。
「松山様は不思議なお方ですね…。」
「?」
「昨日まであんなに真っ暗で笑顔なんて誰も見せなかった牢獄が、あなたが来ただけで陽がさしたように明るくなった…。」
「いえいえ私なんか何も…ここの皆さんがいい方ばかりだからですよ!!」
普通に聞くには特に珍しい言葉ではないが、杉の言う"ここ"は牢獄で、"皆さん"は囚人なのだ。
だがしかし杉の瞳はまっすぐで、少しも曇らず、周りを卑下する素振りなど微塵もなかった。
「先の囚人の方が言っていたこと…理解出来た気が致します…。」
「え?」
「いいえ、何でもございません…!!」
志乃は嬉しそうに、小さな窓から明るく輝く月を見上げた。
「綺麗ですね…。」
「本当に…良いことありそうですね…。」
牢獄に似合わぬ杉の言葉に志乃はまた頬を緩めると、
いつもより早く脈打つ胸を押さえながら杉の隣で月を見上げ続けていた。
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