*サクラ花火短編集(小)*

□【其ノ九】消えない鎖
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「うー…寒い…飲みすぎたー…。」





友人達と別れた侑は、一人深夜の道を歩いて家へと戻っていた。




「久々に帰ったけどもう家はみんな寝てるだろうなー………ん?」




町を見渡せる高台の道に差し掛かった侑は、思わず目を疑った。

真っ暗な町の一部が、まるで戦争でも起こったかのように赤々と燃えていたのだ。





「あのあたりって…まさか…。」




嫌な予感を振り払うかのように侑は家の方へと走り出した。

だがその予感は家に近づけば近づくほど現実味を帯びていった。







「ハア…ハア…な…何で…。」








侑の家から連なる一帯はすでに火にのまれ、強い風のせいで炎はあっという間に広がっていっていた。

やっとの思いで辿り着いた自宅も、すでに見る影もなく炎に包まれていた。




「父さん…母さん…美菜…どこに…。」




家族を探して周りを見渡すと、周囲には怪我の治療を求めて病院に訪れたであろう人が溢れていた。




「侑ちゃん!!あんた無事だったんだね!!」


「お…おばさん!!」




うろたえる侑に声をかけたのは侑を小さい頃から知る近所のおばさんだった。

背負っている女の子は右手に傷を負い、痛みに必死に耐えていた。




「着のみ着のままなんとか逃げ出せたんだけど、携帯なくて救急車も呼べなくて病院まで来ちまったが…ここも駄目みたいだね…。」



「…!!」




侑は急いでポケットから携帯を取り出すと、震える手で懸命にボタンを押し、消防車と救急車を呼んだ。



「あの…消防車を…火事で…あと救急車も…早く!!!!!」


「今、すでに向かっています。あと20分程で到着します。」






「20分…!?」




今にも手当を必要とするけが人も多い上に、この周辺に住むのはほとんどが高齢者。

その20分で更に状況が悪化するのは目に見えていた。





「一秒でも早く…お願いします…!!」




侑は携帯を切ると、着ていた服を破りおばさんの背負った女の子に止血を施した。



「このままできるだけ動かさないで下さい。大丈夫、命には関わりません。」



「侑ちゃん…。」






そう言うと、侑は無我夢中で周囲の怪我人の応急処置に当たった。






だが器具も薬もない中、研修医になりたての侑が出来たことはほんのわずかで、







心肺蘇生を試みては結局看取る、の繰り返しだった。





そして家族の安否も分からないまま数十人の患者を見送り続け、








火は明け方ようやく鎮火したのだった。





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