*サクラ花火短編集(小)*

□【其ノ九】消えない鎖
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悪夢の夜が明けた次の日、

侑を待っていたのは更なる悪夢だった。







―…バタバタバタ






「侑!!」


「……親…瑛…?」




騒ぎを聞き付けた親瑛は次の日の早朝、変わり果てた故郷へと戻ってきていた。




「寺は…大丈夫だった?」




「ああ…うちは大丈夫だ。それより侑……親父さん達は…?」








病院のロビーの椅子に一人座る侑に、親瑛は恐る恐る尋ねた。

だが親瑛の問いに侑は顔を上げず、静かに首を横に振った。






「ダメだった…ダメだったよ親瑛……。」








「侑……。」







侑の両親と妹は家から助け出されたものの一酸化炭素中毒で既に死亡していた。

同じく、その日の火事で亡くなった住民は12人、けが人は20人にも昇った。

住民のそれほど多くないこの田舎では、この規模はかなりのものだった。









「俺…医者のくせに一人も救えなかった……それに……火元はうちだったかもしれないって………どうしよう………親瑛…!!」














肩を震わせて泣き崩れる侑に、親瑛は一言もかけることが出来なかった。

そしてこの日から、侑は恐らく死ぬまで消えない鎖に縛られる事となってしまった。






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「…侑の家が一番燃えてたって事で火元は侑ん家って言われてるが結局ハッキリはしてねーし、恐らく放火だろうって話だったんだ。」



『…。』




黙って親瑛の話を聞いていた桜は、納得のいかない顔で俯いた。




「それからあいつはずっと"自分の家から出た火で死人を出した事"と"医者のくせに家族含め誰も救えなかった事"に責任を感じ続けてる。」




『そんな……。』




「今も侑は火事を見るとあの時の事思い出して動けなくなるし、酷いときは過呼吸起こしてぶっ倒れるしな…。」



『…じゃあ…さっきテレビを消したのはそれで…。』




親瑛は車を止めて真剣な顔で桜に尋ねた。





「…家族全員失って、責任感じて夢も諦めて地元に戻って、その上亡くなった奴の法事に毎年詫び入れに行く必要まで…あいつにあると思うか…?」








桜は目に浮かぶ涙をぐっと堪えて、首を横に振った。






「……だよな。皆そう思ってんだよ、侑以外はな。」








親瑛はそう言い残すと経をあげる家へと入っていき、

残された桜は侑の事を思い、膝を抱えて落ちてくる涙をぬぐった。



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