*サクラ花火短編集(小)*
□【其ノ九】消えない鎖
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―…チチチ
一方、仕事を終えた侑はおぼつかない足取りで家路についていた。
「…。」
あたりが暗くなればなるほど六年前の今日を思い出し、上手く息をすることさえ辛くなっていく。
今年でそれももう六回目だった。
「毎年毎年…なかなか楽になれないもんだなぁ…。」
ポツリと呟きぼんやりと黒に染まる空を眺めると、
侑は暗闇を避けるように明るい住宅街の道を歩いた。
(親瑛と桜さん…もう帰ってるかな…。)
携帯を取り出そうとした瞬間、前方に見えた人だかりから聞こえた奇声に侑は駆け寄った。
ー…ゴオオオオオ
「なっ…!!」
侑が近づいた人だかりの先には、あの日と同じ、炎に包まれた一軒の民家があった。
突如目にした光景に動揺を隠せない侑は、フラフラと人だかりの後方へと離れた。
「っ……。」
![](http://id42.fm-p.jp/data/219/rrrrruyo/pri/351.jpg)
否応なしに思い出されるあの日のフラッシュバックと耳鳴り。
うずくまってしまいそうになるのを必死に堪えていると、人だかりの先頭から泣き叫ぶ女の声が響いた。
「離して!!!!まだ…まだ中に娘が…!!!!!」
「今入ったらあんたも出て来られなくなる!!今消防隊が向かってるから…!!」
「いやあああああああああ!!」
泣き崩れる女の姿を固唾をのんで見ていた侑の隣で、近所の住人がいたたまれない表情で呟いた。
「…あの家って六年前も火事で焼けておじいさんが亡くなってるわよね。」
「今度は娘さんまで…助かればいいけれども…。」
「…!!」
たまたま聞こえてきた会話は今の侑にとって、あまりにも酷な事実だった。
そして侑は自分を落ち着かせるように大きく息を吸うと、人だかりをかきわけ泣き崩れる女の肩にポンと手を置いた。
「今度は絶対…助けますから。」
「…え…?」
侑は一言そう呟くと、
一人燃えさかる民家へと、
![](http://id42.fm-p.jp/data/219/rrrrruyo/pri/352.jpg)
入っていったのだった…。
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