*サクラ花火*

□楓
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ー…ピーチチチ…








あれから数日、

あんなに騒々しかった涛次郎はぱったり姿を見せなくなっていた。





『ダメだったんですかね…涛次郎さん…落ち込んでたりして…。』



「まあなぁ。言っても涛次郎だしな。」

『ははは…』




「『……。』」





とは言いつつも内心涛次郎のことが気になっていた二人が心配そうにため息をつくと、

二人の前に突然意外な人物が現れた。






「桜さん、一さん。」





『ん…?か……楓さん?!』


「近くに寄りましたので、伺いました。」






そう言って微笑む楓に、桜は驚き呆気にとられていた。

ひとまず目の前で笑う楓にニコッと笑顔を返しながら頭の中を整理していた。





「あの…簪のお店、桜さんに教えてもらおうと思いまして。」


『あっ!!簪!!はい!!喜んで!!』






桜が状況を把握しそう言って頷くと、楓は嬉しそうに笑った。

そして桜は涛次郎の事が気になりながら、楓と簪屋まで出掛けることになったのだった。







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ー…ガヤガヤ





「やっぱりこのへんは賑やかですね。」


『あ…はい!!そうですね…!!』






相変わらず人で賑わっている大通りに出ると、

ずっと緊張しきりだった桜は、勇気を出して気になっていたことを楓に尋ねた。






『あの…楓さん…あれから涛次郎さんとは会ってないんですか…?』





桜の問いに楓は不思議そうに答えた。





「涛次郎さん?いえ、毎日来てくれてまして、お会いしてますよ。」


『え…?!毎日!?お店でですか?』





「いえ……。えと……内緒ですえ?」









『まさか…。』








「はい。ようしてもろうてます。」





そう言うと、楓は照れたように微笑んだ。

そのはにかんだような幸せいっぱいの笑顔に、桜は呆気にとられたように肩の力を抜いた。






(つ…付き合ったって事!?あの人は〜!!!心配だけさせてええ…!!)





「どうかしましたか?」


『あ…いえ!!何だ…良かったです…涛次郎さんとの恋が実って…!!』




「ふふ…ありがとうございます。」






そう言うと、二人は嬉しそうに顔を見合わせて笑いあった。






『あっ!!ここです!!簪屋さん!!ほら、これとか可愛い♪♪』


「本当!!可愛いです!!私もこれにしましょう♪」


『じゃあおそろいにしましょう〜!!』












二人で簪を選びながら、いつもは芸子の楓も普通の女の子の顔になっていた。







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「今日は突然買い物に付き合ってくれてありがとうございました。桜さん。」



『いえいえ!!私もすごく楽しかったですし♪あ、桜って呼び捨てでいいですよ♪』





それを聞いた楓は、驚いたような顔をして少し照れながら言った。






「じゃあ…桜…ありがとう!!…」









桜は笑顔で頷き、二人は一緒にまた買い物に来る約束をした。

いつも芸子の仕事ばかりで女友達など一人もいなかった楓にとっては、それはとてもとても楽しい時間であった。




そして同時に桜も、この世界に来て初めて女友達が出来た事に喜びが隠せなかった。







(江戸時代も現代も、女の子はみんなおなじなんだなぁ…良かった…。)








そんな事を思い桜はホクホクした笑顔を浮かべると、楓とお揃いの簪を手に桜は夕暮れの家路を急いだのだった…。





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