*サクラ花火*
□長州へ
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あれからもう一週間が過ぎ、楓と赤ちゃんの墓標は、見晴らしのいい涛次郎お気に入りの場所に建てられた。
そんな中、未だに現実を受け入れられない桜に、涛次郎は楓の形見の簪を手渡した。
『これ…。』
「桜に選んでもろうた簪、あいつの宝物やったんじゃ。あいつ言うとったぞ、ずっと欲しかった"友達"が出来て、"好きな人"と一緒になれて、本当に本当幸せだ…ってな。」
『……!!』
溢れ出そうになる涙を必死で飲み込んだ桜に、涛次郎は笑顔で桜の肩をポンと叩いた。
「あいつはかわいそうなんかやない。わしらが幸せにしてやれたんじゃ。」
『はい…。』
「なあに、ちーっと離れるだけぜよ!!次に楓に会ったらその簪、またあいつに渡してやってくれ。
それまであいつの事…忘れんでやってくれな…桜…。」
『当たり前です…!!絶対に…忘れません…!!』
そう言うと、桜は涙を堪えて簪を受け取り笑顔をつくった。
涛次郎さんが、一番辛いはずなのにみんなに笑顔を向け続けている。
そう思うと、桜は自分ばかり泣いてはいられなかった。
(楓…次に会う時までそれまでこの簪、私が預かっておくからね…!!)
そう楓の墓標に話しかけると、桜は簪を髪に指し、いつもの日常へと戻っていった。
..................
ー…ザザーン…
「わしん嫁を口説きにでもきたがか、一?」
楓の墓参りに来ていた一に、同じく墓参りに訪れていた涛次郎が話しかけた。
「俺よりお前みたいな馬鹿がいいんだとさ、見る目ねぇよな〜。」
「はは、まったくじゃ。」
涛次郎はそう言ってアハハと笑うと、持っていた花束を楓の墓前に供えて手を合わせた。
「総助はどうしとる?あいつにも迷惑かけてしもうたな。」
「助けられなかったって落ち込んでたが、大丈夫だろ。あいつも馬鹿じゃない。お前と違ってな。」
「言うてくれるのう。」
「復讐なんてな、誰も喜ばねぇぞ。」
「!!」
全てを見透かしたかのような一の言葉に一瞬驚いた涛次郎だったが、
またすぐにいつもの笑顔に戻り一を見た。
「……相変わらずお前は怖いのう。なんでも見透かされとるようじゃ。」
「顔に書いてあんだよ。無駄死にでもさっさと楓の所に行きてぇのかもしれねーけどな、
幕府相手に仇討ちなんて犬死にもいいとこだ。」
「…。」
「どうせ死ぬならでかい土産話持って死ね。馬鹿な幕府を倒してからだ。」
一はそう言うと、スッと立ち上がり海の彼方に目を向けた。
その目にはどこにも迷いがなく真っ直ぐで、隣に座っていた涛次郎もギュッと拳を握り締めた。
「倒幕…出来るんかのう、わしらに…。」
「出来るかじゃなくてやるんだよ、もう二度と…楓のような奴を出さねー為にもな。」
「一…ああ…そうじゃな。」
そう言うと、一と涛次郎は目を合わせてニッと笑い合った。
「そうと決まれば根回しは頼んだぜ、涛次郎。」
「ああ、まかしとき。で、おんしはどうするんじゃ?」
「取り敢えずちょっと面倒くさい人が来てるみたいでな。それが済んだら俺も手伝うわ。」
「面倒くさい人…?」
一はハアと溜め息を付くと、首を傾げる涛次郎を残しめんどくさそうにその場を後にしたのだった。
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