*サクラ花火*

□大政奉還
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―…チチチ




『……。』




まだ日も昇らない早朝に目が覚める。


ここの所桜は毎日この調子だった。






目が覚めては、総助がまだいるのではないかと思ってしまう。




あの日のように、



"起こしちゃいましたか?"


と、優しく笑いかけてくれるんじゃないかと願ってしまう。






でももう何処にもあの優しく笑う人はいなくて





総助が桜の胸元につけた紅いアザは日に日に薄れていっていた。









「これで少しは…覚えておいてもらえますよね…。」












『消えないで…お願い…!!』






このアザを見ると、まだ総助が近くにいる気がして少しだけ救われた。



だが時は無情に過ぎ去り、桜からその少しの救いさえも奪おうとしていた。









声も笑顔も温もりも…昨日の事のように思い出す。




でもこの記憶はいつまで持つんだろう…





声と笑顔…どちらが先に思い出せなくなるんだろう…?







そしてそんな出口の見えない悲しさをまぎらわせるように、

桜は懸命に仕事に取り組んでいた。







そんな時だった……





........................






―…ガタ…ガタンッ!!!!!!





「桜!!桜はおるか!?」



珍しく楢崎が慌てた様子で玄関先で叫んだ。




『はい!!た…高砂さん!?』


玄関に行くと、そこには楢崎に担がれぐったりする一の姿があった。




「話している途中に倒れ込んでな…寝かせる場所を…。」



『はいっ!!こちらです!!』




桜が部屋に案内すると、楢崎は一を寝かせ桜を部屋の外に呼んだ。












「お前ももう気付いておろうが一の労咳は…かなり進行している。あまり無理しないように見張ってやってくれ…。」



『はい…あの…お医者様にはお診せしなくていいのでしょうか…?』






不思議そうにする桜に、楢崎は顔を曇らせて答えた。





「この京に…攘夷浪士を快く診てくれる医者はほとんどいない。長州に戻れればいいんだが…もう一にそんな体力は……。」




目を伏せながら顔を曇らせる楢崎を見て

労咳という病気をよく知らない桜にさえ、一の状態がかなり悪い事が分かった。








京にいる長州藩士達のほとんどは病気や怪我の手当てを総助に頼りきっていて

総助がいなくなった事で一だけに限らず、あちこちにその弊害が起こっていた。




『……。』


















「別に見たくもない懐かしい顔がいますけど、どいてくれませんかね?」






『「!??」』






突然、立ちすくむ楢崎の後方から

聞き覚えのある声が聞こえ二人は振り返った。












そこにいたのは、ニコッと冷めた目で笑う











才原春就だった。





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