*サクラ花火*

□ずっとあなたと
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―…トントン



『高砂さん、お食事お持ちしました。』




桜が粥を持って部屋に入ると、一は力無く笑った。





「ああ…悪ぃな…。」




あれから一の容態は日増しに悪くなり、一日床に伏せていることも多くなっていった。

桜が粥を差し出すと、一はぼんやりとそれを眺めた。






『高砂さん…食べれそうに無いですか…?』

「あ…いや……でも、食った方がいいんだよな…?」


『それは勿論…でも無理には…。』




「いや…食う…。」





一はそう言うと、桜が一匙すくった粥を口に入れた。

だがすぐにひどい吐き気に襲われ、一は食べるのを止めた。




「後で食うから…置いといてくれ。」


『はい…じゃあ…食べれそうだったらまた呼んで下さいね!!』





桜がそう言って部屋を出ようとすると、春就が顔を出した。





「一、小忠太と薫が見舞いに来てますよ。」



「分かった…桜、布団上げるの手伝ってくれ。」

『あ、はい!!』





そう言うと、一は辛そうに起き上がり新しい着物に袖を通した。

こうして一は来客があるたび、布団を上げて着物を着替えて出迎えていたのだ。












それは衰弱して弱りきった姿を見せたくないという、一のせめてもの強がりだった。









......................








「一…寝てなくて大丈夫なのか?」




「ああ!!大丈夫だ。それよりどうした?二人揃ってわざわざ…。」


「これ…預かってきたんッス…一さんの隊の人から…。」





そう言って小忠太が差し出した篭の中には卵や砂糖、野菜が沢山入っていた。






「こんなに沢山…あいつら…。」


「いつのまに一の病を知ったのか知らんが、皆で病に良いものを集めたらしいぞ。」


「皆さん、一さんの病が治るように毎日お百度参りしてるらしいッス。」




「……!!」




一は弱った姿を見せるのが嫌で、ごくわずかな人間以外は面会を断っていた。

だから一の病を聞いても隊の者は一を見舞う事は出来ず、楢崎達に見舞品を託したのだった。






「有難く頂くって伝えてくれ…あとそんな心配しなくていいってな!!」


「…はい!!了解しましたッス!!」




一がニッと笑うと楢崎と小忠太は頷いた。




「で、新政府の話はどうなってる?」


「まだまだ諸藩もまとまってないし、旧幕府軍の抵抗がまだ続きそうだな。前途多難だ。」




楢崎が言葉を濁すと、小忠太がそれを遮るように力強く言った。




「心配しなくていいッス!!俺が絶対…上手くいかせるッスから!!!!」




「小忠太……。」












小忠太の言葉に一と楢崎は頬を緩めた。





「では…そろそろ行こうか小忠太。」

「え?もう行くんッスか?」



「お前にはやる事が山程あるだろう!!」




そう言って小忠太を小突き、楢崎は小忠太を引っ張り立たせた。




「わざわざ来てくれてありがとな!!あいつらにも…宜しく伝えてくれ。」



「ああ。お前も体を大事にな。」




楢崎はそう言うと、小忠太を連れて屋敷を後にした。







........................




ー…バタン




「何であんなに急いで帰ったんッスか?一さんも元気そうだったしもうちょっといても…。」





足早に屋敷を出た楢崎に、小忠太が不思議そうに尋ねた。




「一は昔から自分の弱い所を人に見せるのが嫌いだったからな…。

だから俺達がいるとあいつは無理をしてしまう、本当なら今だって立ち上がるのも辛かったはずだ。」




「……!!」




「お前が一にしてやれることは見舞いに行く事なんかじゃない…きちんとあいつらの意思を継ぐことだ。」




楢崎はそう言って小忠太の方をポンと叩いた。





「…俺…頑張るッス…!!」





そうして楢崎と小忠太は、

新しい世を作る為あちこちを奔走する慌ただしい日常へと、戻っていった。





そしてこれが、




二人が一と会う、最後の時となったのであった。



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