サクラ花火短編集(大)
□【其ノ一】親瑛の仕事
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「やべ!!もうこんな時間かよ!!桜、行くぞ!!」
『は…はいっ!!』
いつも着ている着物とは違う法衣と袈裟に着替えた親瑛は、桜を連れて慌てて寺を後にした。
今日はご近所さんでお世話になっていたおじいさんのお葬式。
親瑛さんはそのお葬式でお経を読む為、おじいさんの家へと向かっていたのだった。
「あのクソジジイに俺が経を読むことになるとはなぁ…世も末だな。」
そう言って笑う親瑛だったが、その横顔は寂しそうだった。
幼い頃に両親が亡くなり、祖父が住職をつとめるこの寺に引き取られた親瑛にとって
祖父は勿論、近所のおじいさんやおばあさんも両親のような存在だった。
「昔から俺のする事にギャーギャーうるせぇじいさんだったがなぁ。」
『確かに厳しかったですけど、お優しい方でしたよね……。』
「…そうだな。」
寺から歩いて数分のおじいさんの家には、すでに沢山の人が集まっていた。
「親瑛さん、お待ちしておりました。こちらへ…」
「ああ。」
喪主と思われる男性に連れられ、親瑛はおじいさんの祭壇が飾られた部屋へと通された。
「……。」
その瞬間、親瑛の顔が一瞬曇ったのを桜は気づいていた。
が、すぐに親瑛はいつもの表情に戻り、祭壇と参列者に礼をした。
『……。』
(親瑛さん…人が死ぬのは当たり前だっていつも言ってるけど…悲しくないわけないよね…。)
そして祭壇の前に座った親瑛は、おじいさんの写真に目をやるとお経を読み始めた。
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