サクラ花火短編集(大)
□【其ノ三】駆け込み寺の用心棒
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『駆け込み寺…ですか?』
医療道具を準備する総助に桜が尋ねた。
「はい…そこに急病人がいるから来て欲しいと頼まれたんです。」
『急病人なら来ていただいた方が早いんじゃないですか?器具も揃っていますし…。』
不思議そうな桜に一が言葉をはさんだ。
「出られねぇだろ、駆け込み寺に入ってる奴は。」
『え…?』
当時の夫婦が離婚する際は女性から離縁を申し込むことは出来なかった。
それ故に旦那の借金のカタに女郎に売られたり、酷い扱いのまま離縁して貰えない妻も多かった。
そしてそんな女性が唯一取れる手段が駆け込み寺に逃げ込む…というものだったのだ。
「また女郎に売る為に連れ戻そうと狙ってる旦那も多いみたいだからなぁ。」
『そんな…。』
桜は一の話を聞きながら言葉を失っていた。
自分はこの世界に来て一と総助に偶然出会い、二人は本当によくしてくれている。
もし出会ったのがそういう男達だったら間違いなく自分は女郎に売られていたのだろうと考えると背筋が凍りついた。
「…なので男性を嫌がる患者さんだった事を考えて、桜さん着いてきて貰ってもいいですか?」
『はい…!!もちろんです!!』
.........................
―…ザッ…ザッ…
『ハァ…ハァ…こ…こんな山奥に…お…お寺があるんですか…?』
「もう着く頃だと思うんですが…あ、見えてきました!!」
山を登り始めて数時間が経った頃、山あいに古びた寺が姿を表した。
「よし、後は大丈夫だから一、帰っていいよ。」
「ふざけんな!!こんなとこまで荷物持ちさせといて茶ぐらい出させろ!!」
「桜さんに荷物持たせるわけにはいかないでしょ。それに男は少ない方がいいんだってば。」
ギャーギャー言い争う二人を見ながら桜が寺の門に近づくと、
門の柱には、無数の小さな穴が開いていた。
(なんだろう…この穴…。)
不思議に思いながら桜が柱に触れた瞬間だった。
―…ザザザッ
「早く入れ!!娘!!」
『へ!??』
桜の前に突如現れたのは
二本の刀を構えた
一人の女だった。
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