サクラ花火短編集(大)

□【其ノ三】駆け込み寺の用心棒
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―…ザク…ザク…





住職の話を聞いた桜は、彼岸の事が気になり境内をうろうろしていた。









(こんな場所が江戸にあったなんて…知らなかったなぁ…。)










『……ん?…あ!!』


「あ。」






寺の建物をぐるりと回ると、縁側で1人座っている彼岸に遭遇した。







「あ…桜…だっけ?さっきは迷惑かけたね、ごめん。」


『め…迷惑だなんてそんな…!!私こそ紛らわしい事してしまって…。』





そう言って桜が謝ると、二人は顔を見合わせて笑った。







『彼岸さんは…おいくつなんですか?』



「彼岸でいいよ。歳は20。」


『えっ!!同じ歳じゃないですか!!私も20です!!!』







そう言って桜が嬉しそうに笑うと、彼岸も嬉しそうに笑った。





「さっきの連れは友人か?」



『高砂さんと総助さんですか?はい!!』













「…あまり男を信用しない方がいい。」




『え…?』








彼岸の口から出た思わぬ言葉に、桜はどう返していいのか分からず黙りこんだ。







「お前の事をいいようにしてから、遊郭にでも売り飛ばすつもりかもしれないからな。」



『な…っ!!高砂さん達はそんな人じゃありません!!!』





「めでたいな。男なんて、信用するだけ馬鹿をみるぞ?」



『そんな事っ…!!!!』

「柱の穴―…」


『え…?』





必死に反論する桜の言葉にかぶせるように、彼岸は淡々と続けた。







「お前が見ていた柱の穴はな…女達が必死の思いで投げた簪の跡だ。ここでは簪が柱に刺されば、寺に逃げたと見なされる。」






『……。』






「でも…それなのに…それをあざ笑うかのように泣き叫ぶ女を引きずり連れ戻す男ばかりだった。大切だから連れ戻すんじゃない。まだ"使える"から連れ戻…―」

『やめて!!!!!!』





「……。」





『やめて…下さい…!!』








目にいっぱい涙をためて、桜は彼岸の言葉を遮った。









「…女なんてただの道具としてしか見られてないってこと、覚えとくんだね。」






彼岸はそう言って桜に冷たい視線を落とすと、その場から立ち去った。






『そんな事ない…!!そんな人ばっかりじゃ…ない……!!!!』







彼岸の男性への不信感は予想以上に深く、

その不信感が簡単に覆るものではないことは桜の目から見ても一目瞭然だった。











『彼岸さん…。』









彼岸が見てきた悲惨なその光景は、現代から来た桜にはとうてい理解できるものではなく




一人残された桜はその場に立ちすくみながら

彼岸の後姿を見つめることしか出来なかった…―。




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