サクラ花火短編集(大)

□【其ノ八】牢獄に飛ぶ鳥
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安政元年 






一と総助が杉の私塾に入るずっと前、日本が黒船来航に揺れる最中

血気盛んな25歳の杉 松山は、萩の獄へと下っていた。











ー…ザッ…ザッ…







「着いたぞ、降りろ。」






「…。」















見慣れた獄を見上げると、杉はハアとため息をついた。






「見慣れたもんで感慨深くもないですねえ…。」



「杉?!また来たのか!!お前いい加減自重してろよ。」






看守の侍が笑い声をあげると、杉は困ったような顔で笑った。





「捕まるなんて思わなかったんですもん。はあ〜見逃してくれませんか?」




「今度は何やったの?お前。」



「…老中暗殺したいから大砲借りたい♪って藩にお願いしに行っただけです。」








杉の言葉に看守たちは一斉にゲラゲラと笑い声をあげた。







「相変わらず天然なのか馬鹿なのか分からねえ奴だな!!そりゃ捕まって当然だろうよ!!」




「でも別に殺したわけじゃあ無いのに獄に入れるなんてあんまりでしょ〜…。」






そう言って杉は不服そうに看守に連れられると、大人しく牢に収まった。









この時期、幕府は長州らの攘夷志士を一斉検挙していた。


その事に腹を立てた杉は、検挙を実施した老中を暗殺しようと、あろうことか藩に素直に伝え、挙句武器を貸すよう願い出た。


杉を争いを生む火種として見た長州藩の家臣たちは、杉が行動を起こす前に獄へと押し込めたのだった。













......................







「ハア…ここもたいして変わりありませんねぇ…。」





ー…ガタッ










「?」





杉がボンヤリ牢の中を見渡していると、隣の牢の奥からゆっくり姿を現したのは















杉も予想だにしなかった若い女性だった…。








「これは失礼しました…!!今日から隣に来ました杉松山と申します。」




「……志乃と…申します…。」





ニッコリと笑い頭を下げる杉に対して、志乃は不思議なものを見るような目で戸惑いながら頭を下げた。







―…ドサドサドサッ!!!!





「あ。」


「…?」





杉が頭を下げた途端、杉の懐から大量の本が床にばらまかれた。





「その本は…。」






「獄の中も暇なので…でも持って来すぎだったみたいですね…。」










突拍子もない杉の言葉と行動に、

それまで警戒と緊張を隠せずにいた志乃も思わず笑顔を見せた。




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