サクラ花火短編集(大)
□【其ノ九】陰頑の志士-もうひとつの池田屋-
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ー安政五年 十一月ー
ー…ギッ…ギッツ…
「よし、出来た。」
「俺もだ、上出来じゃねえか。」
一と総助がニッと笑うと、周りに立っていた者達も、皆力強く頷いた。
ここは萩の城下が見渡せる山の中腹。
そこに杉の私塾の生徒達は処刑された杉の墓石を建て、墓石に小さく、建立に携わった生徒の名前を各々刻んでいった。
皆、殺されても構わないとの覚悟を決めて…。
「…栄之助、お前まで本当にいいのか?この墓石が見つかったらここに名のある奴はもれなく処刑なんだぞ。」
早々に石に名を刻んだ一は、遠巻きに石に名を刻もうとする少年に尋ねた。
「無論だ…杉先生に受けた恩儀は重い。俺なんぞの命よりも、遥かにな。」
「…お前の命を大切に思ってる人間がいるってのに、そんなこと言うもんじゃねえぞ。」
一の言葉に栄之助と呼ばれる少年は、顔を俯けた。
「鈴の事を言ってるのか…?いいんだ。あいつだって…いつまでも俺にくっついているわけにはいくまい。」
「…そっか。」
「一、これで全員名前入れ終わったよ。」
「ん、ああ。」
高砂一
才原総助
谷小忠太
吉田栄之助
入枝杉蔵…
総計17名の杉の門下生達が杉の墓石に名を連ねた。
「杉先生が残したもの…絶対に俺達で形にしよう。」
「ああ…俺たちが生きてる限り、杉先生の想いは死なねえ!!」
杉が残した小さな芽は、門下生一人一人の心に息づいていた。
20をやっと過ぎたばかりの若者達は、その短すぎる命を使って杉の教えを果たそうと
この日を境に”杉の私塾”という枠を超えて動き始めたのだった…。
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