サクラ花火短編集(大)

□【其ノ九】陰頑の志士-もうひとつの池田屋-
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ー…バタバタバタ…





「栄之助、何やってんだ?お前も遅刻すんぞ!!」




「…ああ…。」




「…ったく朝から暗ぇなあ…先行くぞ!!」








「一、栄之助も!!遅刻するってば!!」


「うっせーバカ総助!!今行ってんだろが!!!!」



「…。」














安政四年、


時代のめまぐるしさを感じながらも、一と総助をはじめとする門下生達は杉の私塾へ通う毎日を送っていた。


杉の私塾はめまぐるしい発展を見せ、あっと言う間に塾生は20名以上に膨れ上がっていた。





.........................





「今日の講義はここまでにしておきましょうか。では続きはまた明日。」




「ありがとうございました!!」





ー…ガラッ





「栄之助!?」




「もう講義…終わってしまったか…?」




講義の終わった私塾に現れたのは、朝見た姿よりもだいぶボロボロで傷だらけになった栄之助だった。






「もう講義は終わったけど…何があったの栄之助!?」



「泥遊びでもしてきたのか?」




「え…栄之助さん?後ろにいるの誰ッスか??」







小忠太が栄之助の後ろを指さすと、齢10程の少女が恐る恐る顔を出した。










「…俺の妹だ。」




「栄之助の…妹?!」












.....................







「きゃはははは!!捕まえたッス!!」


「すっ…鈴ちゃんそれ俺の真似ッスか〜!?」








―…ビッ…ペタッ




「はい、終わり。」


「すまない…総助…。」




庭で一と小忠太と遊ぶ鈴を見ながら、栄之助は総助に傷の手当てをしてもらっていた。




「鈴ちゃんをいじめてた奴をやっつけてた…とかでしょ?」



「……。」




「何で朝会った時に言わないの、少しはみんなに頼ればいいじゃない。」





人一倍無口な栄之助は、いつも多くを語らなかった。

どんな困ったことも、誰にも相談せず一人で解決しようとする。総助はそれが心配だった。





「俺は…借りは作りたくない。」



「…ひねくれてるんだから…誰も借りだなんて思わないよ…。」





総助はそう言うと、小さくため息をついた。






「しょうがねぇよ総助!!栄之助の頑固と根暗はもうなおらねぇって。」




「お兄様の悪口を言ってはならんッス!!高砂様!!」



「悪口なんか言ってねぇだろ、チビ!!」



「鈴ちゃん俺の口癖真似すんのやめてくださいッスよ〜!!」



「あはははは!!!」





楽しそうに笑う鈴を見ながら、栄之助はほんの少し笑顔を作った。














「総助…今何時だ!?」



「今…?もう日暮れだから暮れ六ツくらいだと思うけど…。」







総助の言葉に突如席を立った栄之助は、血相を変えて鈴に言った。







「鈴!!帰るぞ。」


「え?鈴もう少し遊びたいです!!」





駄々をこねながら小忠太の後ろに隠れる鈴に、栄之助は強い口調で言った。






「いいから!!早く急げ!!」



「!!」



「栄之助…?」





ただごとではない様子で鈴の手を引いて家路についた栄之助を、一と総助、そして小忠太は不安そうに見つめていた。




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