サクラ花火短編集(大)
□【其ノ九】陰頑の志士-もうひとつの池田屋-
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ー…バキッッ!!!
「またお前こんな時間まで杉とかいう男の私塾に行っていたな!!」
「…。」
鬼の形相で栄之助を迎えたのは栄之助の両親だった。
「父上!!兄様をぶつのをやめてくださいませ!!」
「鈴、下がってなさい。」
おびえる鈴を母が部屋から連れ出すと、父は栄之助の前に腰を下ろした。
「分かってくれ…栄之助…お前は大切な吉田家の跡取りなんだ。あの杉とかいう男にお前は騙されてるだけなんだ…。」
「はい…十分に…承知いたしております…ですが父上…杉先生の事は誤解しないで頂きたい…先生は…」
「お前はまだそんな事を言っておるのか!!外で頭を冷やしていろ!!」
ー…ドサッツ!!バタン!!
「…。」
当時、杉の評判は門下生からは絶大ではあったが、その過激な思想の面で親達からは危険視されていた。
特に家の跡取りをそんな危険思想の男に近づけたくないと思う親も当然多く、
親の理解を得られないまま隠れて塾に通う者も少なくなかった。
「やはり分かっては頂けない…か…。」
父に庭に放り出された栄之助は、ぼんやりと立ちすくんだまま空の星を見上げた。
ー…ガサッ
「親がいたらいたで大変なんだな…。」
「そうだね…。」
栄之助の事が心配になった一と総助は、こっそり栄之助の後をつけていた。
親のいるものいないもの。
立場は違えど同じ志を持つ仲間を、一と総助は複雑な心境で眺めていた。
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その翌日から栄之助は杉の講義に姿を現さなくなっていた。
だが杉は来る者拒まず去る者追わずの精神な為、栄之助の事を口にすることは一切無かった。
「栄之助…もう来ないのかな。」
「さあなぁ…でもま、それはそれでいい生き方なんじゃねぇか?」
「うん…。」
「…。」
そうは言ったものの、栄之助の事が気にかかっていた一は、
講義が終わってから栄之助を探しに町へと向かったのだった。
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