サクラ花火短編集(大)
□【其ノ十】守るための戦
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―…ドン…ドンッ!!
「高砂隊長!!砲撃が開始された模様です!!」
「ああ、進軍開始だ。」
慶応二年
幕府軍と長州兵の衝突が各地で勃発していた頃、
一もまた自分の率いた兵を連れて、幕府軍との戦いの前線に身を置いていた。
「奇襲部隊は裏から回り込め。ぬかるなよ?」
「はい!!」
「まかせて下さい!!」
誇らしげに笑う仲間に、一もニッと笑い頷いて見せた。
一の率いた兵は武士や農民大工など、身分を問わない義勇軍だった。
だがその画期的な軍は士気の下がった武士達より遥かに意識が高く、一を筆頭に各地で善戦を繰り広げていたのだった。
―…ズガァァン!!ドドドド!!
「俺達は貴藩を乗っ取るつもりも、ましては好んで殺戮を続けるつもりも毛頭ない。潔く退いてくれればこれ以上手出しはせん!!」
「……わ…分かった…。我が藩の部隊はこれより撤退する…!!」
「……主君の兵をいたずらに減らさねぇその判断、敬意を表するぞ。」
一はそう言って敵大将にニッと笑うと馬を進め、敵軍が撤退した本陣に火を放った。
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「今日もまた楽勝でしたね!!」
「楽勝とか言ってんじゃねぇよ。そう言う奴が明日死んだりすんぞ。」
「…縁起でもない事言わないで下さいよ〜!!」
戦が一段落して皆が安堵と疲れの表情を浮かべるなか、一はガチガチと何かを組み立て始めた。
「何ですか?それ。」
「ん?三味線だよ。」
「流石高砂隊長です!!戦場にまで三味線とは余裕ですね!!」
そう言って目を輝かせる若い隊士を一は小突きながら答えた。
「余裕をな、無理にでも作らなきゃ明日死ぬのは自分だ。いいか、覚えとけ。戦場では余裕の無くなった奴から死んでいく。」
「はい!!分かってます!!」
珍しく真面目な顔で話す一に、隊士達は皆余裕綽綽の笑顔で頷いた。
「本当に分かってんのかねえ…。」
一はそう言って少し心配そうな顔で笑うと、組み立てた三味線に手をかけた。
「お!!じゃあ俺歌います!!」
「じゃあ俺踊りま〜す!!」
炎を囲んだ隊士たちは、皆楽しそうに騒ぎ、
月夜には三味線と男たちの楽しそうな声が響きわたっていた。
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