サクラ花火短編集(大)
□【其ノ十一】千鈴妓唄
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―…ザッ!!!!
「よっしゃー!!遊ぶぞーっっ!!」
「うるっせーよ!!」
花街に着いた二人は、慣れた足取りで華やかな街を歩いた。
「お前が吉原は苦手だとかぬかすから店探すのも面倒くせえんだぞ〜。」
「はは…すんません…なんかあっちは雰囲気が苦手で…。」
そう言うと、小忠太は困ったように笑った。
「まあいいや!!今日は最近人気の芸妓呼んであるから、行くぞ。」
そして神太は小忠太を連れて、一軒の揚屋へと入っていった。
......................
―…ベン…ベベン…
三味線の音と楽しそうな声が聞こえる廊下を抜けると、ひときわ豪華な装飾の部屋の前で神太は足を止めた。
―…ガラッ
「待たせたな。」
「いえ…とんでもございません。本日はお呼び頂きありがとうございます。」
「…!!」
「千鈴(センスズ)と申します。」
顔をあげ、たおやかに笑う芸妓に小忠太は言葉を失い、同時に一瞬で心を奪われた。
「た…谷…総一です…。」
顔を赤くする小忠太に千鈴は微笑むと、二人の御猪口に酒を注いだ。
「今さら何芸妓に照れてんだよ。」
「え?!あ…いや…だって…こんな綺麗な人今まで見たこと…」
あわてふためく小忠太に千鈴はニコリと笑い、頭を下げた。
(あれ…?)
突如不思議な違和感に襲われた小忠太は御猪口に注がれた酒をじっと見ながら考え込んでいた。
その様子を見かねた神太は、小忠太にこっそり耳打ちした。
「ちょ…お前何やってんの?マジで照れすぎだろ、せっかくなんだから何か喋れよ。ほら、とりあえずなんか褒めろ!!」
「え…?あ、はい!!あ、その前挿し…よく似合ってますね!!」
慌てて思わず弾かれたように言った小忠太の言葉に神太は凍りついた。
(前挿しってアホか!!!!前挿し簪挿してねえじゃねえか!!!!!)
(あわわわわすんませんん!!!!)
「ふふ…。」
「…?」
慌てる二人をよそに千鈴は嬉しそうに自分の頭に手をやり小忠太に言った。
「ありがとうございます…亡き兄上から頂いた大切な簪なのでそう言って頂けて嬉しいです…。」
「…!!」
(ちょっと天然ボケなのか?この芸妓…。挿し忘れてるのに気付いてねえの?)
首をかしげながら不思議そうにする神太に対し、小忠太はハッと何かを思い出したように千鈴に言った。
「鈴…ちゃん…?」
「え…?こ…小忠太…さん…?」
「…え?知り合い?」
視線を合わせたまま驚きを隠せない二人をよそに、一人神太は状況を把握できないでいた。
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