サクラ花火短編集(大)
□【其ノ五】僧職系男子の憂鬱
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―…ピー…チチチ
「あんな恩知らずな息子夫婦に遺産を渡したくねえんだ!!どうしたもんかってねえ…。」
「遺書に書いとくか、いっそのこと遺産全部寄付すればいいだろ。あ、俺ん所にでもいいぞ。」
「あの〜…おばあちゃんがパン好きだったんで仏壇にはパンでもいいですか?」
「…勝手にしろ。」
「もう最近の男って草食系?とか言って頼りがいが無くて〜結婚できるような良い人がいなくて困ってるんですよ〜。」
「…て〜め〜え〜の性格と顔を直してから言ええええええ!!!!桜!!塩まけ塩!!」
『し…親瑛さんっ!?』
一人暑い中皆の相談を受け続けていた親瑛は、堪忍袋の緒が完全に切れていた。
「あははは!!愉快愉快!!お前さんの人生相談は何度見ても飽きんわい。」
寺の縁側でくつろぐ老人たちは、皆そんな親瑛を見ながらゲラゲラと笑っていた。
「笑ってんじゃねーよ!!ったく坊主だからって俺なんかに相談する気がしれねえわ。」
「そりゃお前さんの竹を割ったような珍回答が面白いからじゃろ。んなははははははは!!」
「クソじじい共…死んでも絶対に経あげてやらねーからな…。」
いつも親瑛の寺には近所の老人達が集まり、こうして談笑して過ごすのが日課だった。
それは親瑛のおじいさんが住職をやっていた時から変わらない光景で、小さい頃から親瑛を知る老人たちにとっては孫に会いに行くようなものだった。
『でも先週から法事やお葬式多かったんでやっと落ち着きますね。』
「だといいけどなあ…。」
桜が出したお茶を一口飲むと、親瑛は縁側にゴロンと倒れこんだ。
「たまには休みてーよなぁ…あちー…。」
『お坊さんは年中無休みたいなものですからねぇ…。』
桜の言葉に思い付いたかのように親瑛は言った。
「いや…休んでやる…桜!!デート行くぞ!!」
『えっ…!?デ…デート?!!』
「次の友引の日、空けとけよ!!」
『ちょ…し…親瑛さん…!!』
慌てふためく桜をよそに強引に約束を取り付けると、親瑛は暑そうに本堂へと戻っていった。
("友引の日"かぁ…なんかお坊さんっぽい日にちの決め方だなぁ…。)
"友引"の日とは唯一葬式などの入らない、年中無休のお坊さんが唯一少しのんびり過ごせる日だった。
(デートかぁ…。)
少し嬉しそうに笑うと、桜はカレンダーを眺めたのだった。
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