サクラ花火短編集(大)
□【其ノ十】二度目のさよなら
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ー…コンコン
「…今日はお経をあげて頂きありがとうございました、親瑛さん。」
「いや…とんでもないです。」
神妙な面持ちで頭を下げる男性に、親瑛も深々と頭を下げた。
「あいつも親瑛さんと同じ歳だから…本当ならまだまだやりたいこともあったんでしょうけれども…本当に惜しいです…。」
「…そうですね。」
そう言って男性は遺影を見ると、目頭を押さえ軽く会釈をし、部屋から出て行った。
「…侑…。」
親瑛が椅子に腰を下ろし一息ついた瞬間、勢いよく部屋の扉が開いた。
ー…バンッ!!!!
「桜…?」
『親瑛さん大変です…!!ゆ…侑さんが…!!』
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ー…ピッ…ピッ…
「…。」
「先生、意識戻りました。」
「才原君、分かる?」
「…江夏先生…?」
目を覚ました侑は、見覚えのある病室をゆっくり見渡した。
そこは侑が昔働いていた、市内の総合病院だった。
「まさかあなたが運ばれてくるなんて驚いたわよ。久しぶりの再会にしてもサプライズが過ぎるわ、まったく。」
江夏と呼ばれる女医はそう言って笑うと、侑の酸素マスクを外した。
「あの…あの女の子は…?」
「大丈夫よ、軽い火傷で済んでる。あの程度なら火傷の痕も残らないでしょ。」
「良かった…。」
江夏の言葉に侑はほっとしたように笑った。
「…才原君、重症なのはあなたの方よ。」
「症状の説明は僕に直接お願いします…処置急ぐんでしょう?」
「…理解が早くて助かるわ。」
そう言うと、江夏は持っていたカルテを侑に手渡した。
「左下肢三度、右は二度熱傷。広範囲に渡っているわ。出来うる限りの処置はしているけれども経過次第でははもう…。」
「切る事になるかも…ですか。」
「…あっさり言うのね。」
「死ぬもんだと…思ってましたから。」
侑の言葉に江夏は困ったように顔をしかめた。
「消防隊の人が言ってたわ、逃げ出そうとした痕跡もなかったって。」
「…。」
「目を真っ赤にしたお友達がずっとあなたの目が覚めるのを待っていたわよ。もっと自分を大事になさい、才原君。」
江夏はそう言い残すと、侑の病室を後にした。
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