サクラ花火短編集(大)
□【其ノ十】二度目のさよなら
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ー…コンコン
『侑さん、入りますよ?』
「桜さん…。」
翌日、面会時間と同時に現れた桜は、侑に入院に必要なものを手渡した。
『着替えとかタオルとかここ、置いておきますね?』
「あ…ありがとうございます…。」
テキパキと荷物を棚に直す桜をぼんやり見ながら、侑は無理やり体を起こして言った。
「桜さん、こんな時になんですが…実は病院はもう閉院して大学病院で働くことにしたんです。」
『…え?』
思いもよらなかった侑の言葉に、桜は驚き振り返った。
「…だから申し訳ないんですが桜さんも解雇ということで…今月分の給与はちゃんと振込みますので心配しないで下さい。」
『え?い…いきなりどうしてそんな…?』
「前々から考えていた話だったんです。とにかく、これでもう桜さんと俺は何の関係もありませんから…放っておいてください。後は自分で出来ますので。」
侑の言っている言葉に頭がついていかず呆然と立ち尽くしている桜に、侑は冷たく言い放った。
「彼女でもないのにこんなことして頂かなくて結構ですから、迷惑です。」
『ー…!!』
侑の口から聞いた事も無かった冷たい言葉に冷たい目。
思わず涙がこぼれた桜の頬に、侑はそっと触れた。
「あなたが好きなのは今も昔もあいつだ。親瑛と…幸せになって下さい。」
「さよなら。」
100年以上前に総助が差し伸べた手。
それとなんら変わらないその手を握り返すことも出来ないまま
桜に背を向け振り返ろうとしない侑の病室を後にしたのだった。
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