□恋は気がつけば始まってる
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私のテンションは朝から最高に下がっていた。
最悪だ最悪だ最悪だ。


「よぉチャイナ、また隣か。何、お前そんなに俺の事好きなのかィ?」
「寝言は寝て言うヨロシ。そしてそのまま死ねヨ。」
「ひっでぇ。」


けらけらと、どこか楽しそうに隣の席のドSもとい沖田は笑う。
そんな沖田の表情を見た私はさらにテンションが急降下していく。
というか、もう落ちるところまで落ちたヨ。


ことの始まりは朝のHR。


『突然だが今から席がえすっぞー。異議がある奴は三文字以内で言え。』
『いや、無理です先生。』


年がら年中頭パーンな担任が何を思ったか突然席替えをすると言い出した。
相変わらずの適当さ、相変わらずの新八のツッコミ。
だいたい席替えなんて何で突然?
普通席替えって新学期とかにやるんじゃないのかヨ。
別に今日は新学期でも何でもない普通の日。
もう一度言う、何で突然?


…だがこの際どうでもいい。むしろ待ち望んでいた出来事だ。


なぜならば、やっとやっと…………っ!!


『ふははは!やったアル!やっとお前と離れられるんだナ!!』


あまりの嬉しさに豪快に笑いながら、びしぃっと隣の席の沖田に人差し指を突きつけて叫ぶ。

“沖田と離れられる。”

それはすなわち、早弁してもチクられないしタコさんウインナーを強奪されない。
授業中爆睡してても机を蹴られて起こされないし、嫌味を言われない。
テストの点だって見られないし、馬鹿にされない。
考えたらキリが無いが……あぁなんて素晴らしいことアルか!


『これで私は平和な学園生活を送れるネ!』
『何言ってるんでィ。お前に平和な学園生活が送れるわけねーだろィ。』


幸せな学園生活に胸をときめかせていたのに、やはりこの男は全てをぶち壊していく。
ぶち壊していくだけじゃない、ゴナゴナに砕いたあと真っ黒くろすけな笑顔で踏み潰す。
どうしてコイツはこんなにも捻くりあげているのだろう?マヨのせいか?
というか私が穏やかな学園生活を送れてない原因は、ほぼお前だからナ。


『バカにすんじゃねーぞコラ。私はやれば出来る子ネ。見てろヨ、サド!お前とクソ離れた席を引いてやるからな!』


ふんっと思いっきり馬鹿にした表情+鼻で笑ってやり
私は教卓に置かれた銀ちゃん特製のショボイ箱のクジを引く。
ガサゴソガサゴソとできるだけ中の紙をぐちゃぐちゃにかき混ぜて
心の中では「アイツと離れられますように。」と何度も何度も繰り返し祈った。
引いた席は6番。一番後ろの窓際の席。
うん、昼寝するには最高の場所だ。おまけに先生にもバレにくい。(まぁバレてもするけど)
これで隣や近くにアイツが来なければ、完璧ヨ!



しかし人生ってそう上手くいかないモノであって…………。



『げっ……げぇえええぇええええっ?!!』



はい、振り出しに戻る。



隣の席にまたコイツが来たことにより、私の思い描いていた学園ライフがパーンと儚く散っていった。
早弁、昼寝、安息。
さようなら…私の愛おしきモノ達よ。


「もう最悪アル。何でまたコイツ?何でまたサド?銀ちゃぁああん!席替えやり直そうヨ!」
「馬鹿言ってんじゃねーよ、もう一度する暇なんて俺にはねーよ。今ものっそい忙しいんだよ。」
「ジャンプ読んでるだけじゃねーかヨ。この腐れ天然パーマついでに頭もパーマダオが。」
「神楽ちゃぁああん!思いやりの心って大切だよっ?!人が傷つくこと言っちゃ駄目なんだよ!!」


ぎゃいぎゃいと喧しい銀ちゃん。本当のこと言って何が悪いアルか。
聞いてないフリをすると、また更に五月蝿くなっていく銀ちゃん。
そんな銀ちゃんにキレた姉御は、素晴らしいスピードで銀ちゃんの頭を掴み席替えの箱もろとも教卓に沈没させた。


「……………………。」


教室に静寂が訪れる。


…って、あぁっ?!あれじゃあ、もう席替えやりなおせないアル!リセットボタン押せないアルゥウッ!!


「終わったな。」


ニヤニヤとサドな笑顔を浮かべた沖田がそう言い放つ。
つかなんでコイツ笑顔でいるアルか?
普段のコイツだったら、私と隣になった事にもんのすごく嫌そうな顔をしてもおかしくないのに。


「…………なんでお前はそんなニコニコしてるアルか?」
「だって嬉しいからねぇ。」
「はっ?何がヨ、お前そんなにその席に座りたかったのか?」
「ちげーよ。」
「じゃあなんでアル?」
「はっ?オメェわからねぇの?」
「んなのわかる訳ないネ。いいから教えろヨ。」


ガンッと沖田の机を軽く蹴る。
いつもだったら、沖田も同じように私の机を蹴ってきて、そして私も再度机を蹴る。
そんな終わらない不毛な争いから派手な喧嘩が始まるのに
今日の沖田はどこか変だ。
いや、いつも変なんだけど今日はいつも以上におかしいネ。


だって怒ってない。笑ってる。


本当に嬉しそうに笑っている。


何だヨその表情。
そんな表情、私は知らない。見たことない。




「そんなんチャイナとまた喧嘩できるからに決まってんだろィ?」




コイツと出会って数年が経とうとしている。
だけど、今日初めて私はコイツのいつものサド顔じゃない笑顔を見た。




本当に綺麗な綺麗な笑顔。




そしてその表情に私の心臓がどくりと一つ音を立てた。





最悪だ最悪だ最悪だ。

どうしてまたコイツの隣の席になってしまったんだろう?

どうしてコイツの笑顔を見てしまったんだろう?



どうしてこの想いを芽生えさせてしまったんだろう?





あぁ本当に最悪だ。





***



(ここまで言えばわかるだろィ?いい加減気づけよ、この鈍感馬鹿)
(こんな気持ち知りたくなかったのにっ!全てはあの天パのせいアル!)

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