□初めの第一歩
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「馬鹿。」と言われたからこっちも「馬鹿。」と罵ってやった。
そしたら持っていた傘でど突かれそうになったから刀で受け止めて反撃した。
それからはいつもどおりの大喧嘩。
勝敗は未だかつてキチンとついた事がない、引き分けがずーっと続いている状態。


「ほァたァアアァァ!!」
「うおらァアアァア!!」


ガキィンン…という金属音を辺りに響かせ、俺とチャイナは互いに距離を取る。
そこから同じタイミングで踏み出しての攻防、奏でられるは爆音。
繰り出される攻撃は流石というべきか、流れるような連続技に圧倒的なパワー。
俺も負けじと攻撃をかわし、反撃に出る。


いつもどおりの罵りあい。
いつもどおりの喧嘩。


の筈なのに。
ここ最近、俺は本気で喧嘩できていない。


原因は分かっている。
だけど、これはどうしようもできねェんだよなァ。


「おい。」
「なんでィ。」
「なんで本気でかかってこないネ?お前らしくないアル。」
「気のせいだろィ?俺ァいつでも本気だぜィ。」
「見え透いた嘘ついてんじゃねーヨ。本気か本気じゃないか位、私にはお見通しネ。」


やはりチャイナにはバレていたか。
無理もねぇな。ホントここ最近の俺は前に比べて隙だらけだったからねェ。

そんな腑抜けの俺に飽きたのだろう。
チャイナはふぅっと一つ溜息をつき、突きつけていた傘をバッと開いて俺から背を向ける。


本日の喧嘩はどうやらここまでのようだ。


「敵に背を見せるなんざとんだ失態ですぜィ。」
「アホか。やる気の無い餓鬼に付き合ってやるほど私は暇じゃないネ。」
「オメェの方が餓鬼だろ?酢昆布くちゃくちゃさせやがって。」
「あぁん?テメェ酢昆布のバカにすんじゃねーぞ。これがあれば私の世界は回るネ。」
「一生回り続けてろバカチャイナ。」
「んだとっ!」


マシンガンのように毒を吐き続けるチャイナ。
いったいどこでそんな言葉を覚えてきたんだ?と思えるくらい酷い言葉がポンポン出てくる。
それを適当にあしらいながら俺は突きつけていた刀を鞘に戻した。

つか、あぁ本当にどうしようかねェ?
ずーっとこんな状態が続けば、チャイナはもう喧嘩などふっかけてこなくなるだろう。

それは困る。

コイツとの喧嘩はたいくつな日常をぶち壊してくれる、唯一の時間。
それが無くなってしまうと本当に困る。

コイツと出会う前はそれが当り前だったのに、今ではすっかり俺の生活の一部だから不思議だ。
慣れって怖えェな。

いやしかしなぁ…どうやっても前のように全力の喧嘩ができねェ。


「なんなんだヨお前!最近は前みたいな殺気が全く無いネ!」
「…………。」
「だいたい侍と侍の決闘に情けは不要アル!それともあれか?私が女だから手を抜いているのカ?!」
「えっ?お前女だったの?マウンテンゴリラの間違いじゃ……。」
「お前のとこのゴリラと一緒にすんじゃねーヨ!てか話ズラすな!」
「ちっ。」


チャイナの癖に今日はやけに突っかかってきやがる。
いつもなら怒り狂ってそのまま帰りやがるのによォ。
この話はあまりしたくないってェのに、空気を読みやがれってんだよ。
…まぁ、コイツには無理か。


「さァ、言うヨロシ。どうしてそんな弱虫野郎になったのかを!」
「人にはな、言えないような秘密の一つや二つあるもんでさァ。」
「大丈夫ヨ、お前人じゃなくてサドだから。」
「サドも一応人だから。ガラスのハートを持ってるから。」
「サドでもマゾでも何でもいいから、言えって言ってんだろーがヨ!」


とうとう本格的にブチギレたチャイナにガッと胸倉を鷲掴みされて、怒鳴られる。
あぁ、ちょっとからかいすぎたか?目がマジだ。
あれ…………つか、顔近くね?

掴まれた事によりグッと近づく顔。
その距離は唇と唇があと数センチで触れてしまうんじゃないかってくらいだ。
かつてこんなにも近づいたことがあっただろうか?いや、間違いなく無い。ありえない。
まんまるとした澄んだ青い目が、俺を映している。



その瞬間、俺の中での何かが音を立てて切れた。



あァ、もう駄目だこりゃ。せっかく抑えていたのにねェ。


「……………………。」
「おい、何とか言えヨ。それとも神楽様にビビッて何も言え…。」





ちゅっ。





チャイナの言葉が言い終える前に、俺は素早く唇を奪う。
それはほんの一瞬だったから、幸いなことに周りの通行人等は全く気がついていない。
いぇーい、ラッキー。


「はい、ごちそうさん。」
「………………。」
「これでわかったかィ?なんでお前に本気出せないかが。」
「………………。」


へんじがないただのしかばねのようだ。みたいに
ガッチガチにその場に固まってしまったチャイナに、俺はにんまりと笑ってやる。
こうなったのも全てお前が悪いんだからな。
俺は隠しておこうと思っていたのに、お前が顔近づけてきたりしつこく聞いてくるのが悪いんでィ。



「もしこれでも意味がわからねェンなら旦那にでも聞くことだねィ。じゃーな、クソ餓鬼。」



ポンポンと軽く頭を撫でて、俺は足早にその場から立ち去った。
それには二つ理由がある。

一つはもうじき石化が溶けて暴れだすチャイナから逃げる為。

もう一つは…………。





「やっべぇ、これじゃあ屯所に帰れねェ………。」





この赤くなった顔をアイツに見られない為だ。





その後、俺たちの関係がどうなったのか?それは神のみぞ知るってヤツでィ。





***



ちょっ、沖田くーんっ?!ウチの神楽ちゃんに何してくれてんのォオオォッ?!!
沖田さんついにやっちゃいましたね。
認めねぇーぞ!お父さんは絶対認めませんからねっ!!
いやアンタ神楽ちゃんのお父さんじゃないでしょ?


実は二人にはバッチリ見られてました。

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