□オセロ
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黒板にでかでかと書かれた『自習』の文字に教室は湧いた。
本来は現国の授業だったのだが…
なんでも担当である銀八はジャンプを買いに近所のコンビニに行ってしまったとか。
まぁ授業しようがしまいが何ら変わりはないのだが。
普段の授業はジャンプ読んで、俺らは漢字ドリルをするってだけなのだから(まぁ、俺はしないけど)
そんなこんなで周りは、愛を叫んでいる者もいれば(近藤さんも懲りないねェ)
マヨネーズをすすっている奴もいれば(死ね土方)
アイドルのCDを聴いている者もいれば(いやもう熱唱しているな)
求人情報誌を見ている者(また面接落ちたのかアイツ)などなど
誰一人として真面目に自習していない。


そんな中、俺は何をしているかというと…。


「ほい、終了。」
「んぬぁああぁあああああっ!また負けたアルゥゥウウウウッ!!」


隣の住人であるチャイナとオセロゲームをしていた。
普段の俺らだったら殴り合いの喧嘩を繰り広げているのだが
今日は不思議なことに喧嘩をしようという気分ではない。
誰がいつ持ってきたのかわからないオセロを教室の隅から引っ張り出してきて
チャイナに勝負をふっかけると、早弁していたため頬をリスのようにパンパンにさせながらも勝負を受けてくれた。
周りは、そんな俺らを見て気味悪がったがそんな事は関係ない。
もう一度言う、今日は喧嘩をしたいとかそんな気分ではない。


「オメェ、弱すぎんだろィ。誰だ、全部白く染めてやるってデカイ口を叩いたの。」
「う、うるさいネ!今のはワザと負けてやったんだヨ!」
「さっきもそう言っていたじゃねーか。」
「あぁああっ!!もう一度勝負だクソサドッ!!!!」


プリプリしながらも、見事に黒ばかりの盤面を片付けていくチャイナ。
伏せられた長い睫、小さくぷくっとした唇、白くて細い指、ビン底眼鏡の奥にある空を彷彿とさせる青い大きな目。
全て、全て欲しいと想い出したのはいつからなんだろう?
気が付いたら“クソムカつく餓鬼”は、俺の中では“大切な女”になっていた。
喧嘩ばかりの日常の中に、どこにクラスチェンジする要素があったのだろうか?
恋って不思議だ。わけわかんねェ。

再び始まった、オセロゲーム。
先手は黒である俺だ。
ぱちりと盤面に黒を置くと、チャイナはビン底眼鏡の奥の青い瞳をせわしなくキョロキョロさせる。
どこに置こうか考えているのだろう。

ぱちり、ぱちり。

周りは他の奴らが奏でる騒音によって大変喧しいはずなのに、石を置く音は鮮明に俺の耳に入ってくる。
チャイナの番が終わる。俺は白を挟んで、黒く染め上げる。
実に簡単な作業だ。


あぁ、こいつもこんなに簡単に染まればいいのに。



「おい。」


俺の番が終わったのを見計らって、急にチャイナは話しかけてきた。
なんでィ。と返しながらも目線を盤面からチャイナへと移すと、青い大きな瞳が俺を映していた。
それに、心臓がどくりと音をたてる。


「何か条件つけるアル。その方が俄然やる気が出るネ!」
「ほぉ、例えば?」
「勝った方が負けた方に何か一つ命令が出来る。とか?」
「なるほどねィ。それ乗った。」
「ぜえぇええったい負けないアル!んふふふ、何にしようかナ?」


ふんふんと上機嫌で盤面に白い石をのせていくチャイナ。
その姿をみて、俺はニヤリと笑う。

何でも一つ命令が出来る?そんな滅多にないチャンスを逃せるかィ。


「悪ィが、この勝負俺の勝ちで決めさせてもらいまさァ。」
「ふん、戯言をぬかすなヨ!今に腹黒をピュワホワイトに変えてやるネ!!」


ぱちん。

ぱちん、ぱちん。


白黒の静かなる戦いは続いていく。
黒は白へ。
白は黒へ。
どんどん盤面は石で埋め尽くされていく。



そして。





ぱちんっ!



「…なっ?!」



ピンクの少女の悲鳴が3-Zの教室に響くのは、あと数秒後の事。




***



“俺の彼女になりやがれコノヤロー”

ずっと言いたかった言葉。

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