□さよならのカウントダウン
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一年の二学期の初めに転校してきた、『神楽』もといチャイナは
あっという間にこの個性豊かなこのクラスに溶け込み
今ではクラスの中心にまでのし上がった。
それは卒業間近の三年になった今でも変わらず、クラスの連中に囲まれて馬鹿みたいに大口開けて笑ってる。



そんな人気者のチャイナと普通のクラスメイト(腹黒ドS王子と人からは言われているが)の俺との関係はというと。



「くたばりやがれクソドSゥウウウウゥウウッ!!」
「オメェが逝きやがれクソチャイナァアァアッ!!」



まぁ簡単に言えば『犬猿の仲』だ。

顔を合わせば睨み合いから始まり、それから罵り合いになり、やがては教室を崩壊させるくらいの大喧嘩に発展する。
これが毎日のように続くので、それはそれはお互いが嫌いで憎くてしょうがない…という訳ではなく。
俺は、チャイナの事が好きだ。
それは“友達”に向けていう『好き』ではなく、“想いを寄せる異性”に向けての『好き』だ。

チャイナの転校初日にがっつりハートを持って行かれた俺は、それから約二年と数か月アイツにどっぷりだ。
人目を惹く容姿も、おかしなアルアル口調も、容赦を知らない毒舌も、とんでもない馬鹿力も。


全部全部全部、好きだ。


この気持ちはチャイナ以外のクラスメイトは全員知っちまっているし
土方や銀八のおちょくるような表情は殺したくなるくらい腹立たしいが
アイツらを痛めつけたところで『チャイナを好きだ』という事実は変わらないので
結局は延々に終わらないループを彷徨っている。


「そんなに好きなら告白すればいいのに。」と姐さんや近藤さんなどに言われるのだが
この想いを告げれば今の関係が確実に壊れてしまう事は明白なので、チャイナには告げれてない。
まさか自分がこんなにもへタレ野郎だったとは…ドS王子と呼ばれるほどの俺はどこに行ってしまったのだろうか?
なんだかちょっと凹んでしまった自分を誰にも悟られたくなくて、俺は首にかけていた愛用のアイマスクを装着し眠りについた。


否、つこうとした。


「おい、サド。」


隣の席の住人であるチャイナに、ガンッと机を蹴られ…それは叶わなかった。
眉間に皺を寄せ、自分に出せる最上級の低い声で「なんでィ。」と返す。勿論、睨みも忘れずに。
しかしチャイナは怖がるどころか、ニヤニヤとただ笑っていた。
そのどこか気持ち悪い顔(これを言うと暴れだすことは解っていたので、そっと心に留めておく)に
更に眉間に皺を寄せて、俺はチャイナの言葉を待つ。
長い事チャイナを見続けてきた経験からすると、この表情は何かとんでもない事を言う前触れだ。
どーせ前みたいに、“酢昆布の家を作る”とかそういう系統だろ?
あーもう、いいよ。そういうくだらない話は…



「銀ちゃんや皆にはまだ内緒だけれど…私ネ、高校卒業したら国に帰るアル。」



一瞬、息が出来なくなった。
「はっ…?」と目を見開いてチャイナをガン見すれば、チャイナはいつもと変わらないニコニコ笑顔で
俺は悪い夢でも見ているのかと思った。


だが、無情にもそれはチャイナの言葉で“現実”であると思い知らされた。


「元々パピーと留学は高校卒業までっていう約束だったネ。」
「へぇ…。」
「何アルか!そのどうでもよさそうな返事は!!もっと驚けヨ!!」


もっと驚けよって…今現在、人生で一番の驚きとショックのWパンチを受けているのだが。
悲しいかな、チャイナには全く伝わっていない。
なんだよそれ…なんでそんな何ともない表情でそんな事言うんだよ。


「いつ…帰るんでさァ?」
「卒業式の次の日ネ。まだ期限があるから準備とか全然終わってないアル。」
「そ…うですかィ。でも他の奴らに言ってない事を、なんで俺に教えてくれるんでさァ」
「さぁ?私にもよくわかんないネ。ただお前に一番に教えてやりたかったアル。なんだかんだでいつも一緒に居た気がしたからナ。」
「……。」
「まぁお前私の事嫌いだろうけど、後少しの間だけ喧嘩の相手してくれると嬉しいネ。」


変わらない…本当にいつもと変わらない表情でチャイナは「それだけ言いたかっただけアル!」と笑う。
チャイナの言葉に、まるで壊れた人形みたいに動けなくなった俺は
ただただチャイナの横顔を凝視することしかできなかった。



“まぁお前私の事嫌いだろうけど”


頭に再生されるは、今言ったチャイナの言葉。
俺がお前の事、嫌いだと…?
馬鹿言うなっ!!俺はお前の事好きなんだ!!と怒鳴ってやりたかったが
思った以上にチャイナの帰国話がショックすぎて、もう何も言えなかった。





卒業式まで、あともう少し…。




あぁ神様。
願わくば、時を止めてください。


そんな俺の願いは神に届くことなく、冷たい空気に溶けていった。





***



ずっとこのままで。なんて叶わぬ願いだとわかっていても、願ってしまうんだ。

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