□今昔も
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#子供視点。


喧嘩するほど仲が良いって、あたしの両親の為にある言葉だと思う。


あたしの両親はよく喧嘩をする。
朝だろうが、夜中だろうが、ご飯を食べている最中だろうが関係ない。


「魔女宅ちゃんと撮っとけって言ったダロ?!なんで忘れるアルかぁあああっ?!!」
「だーかーらー!もう何度も謝っただろィ!!それにお前何回も見てんだろーがっ!!」


ドッタンバッタンと近所迷惑極まりない音量で、果てしなくどうでもいい内容での喧嘩をそう広くない一軒家で繰り広げるは、あたしの両親。

父上は、泣く子も黙る真選組一番隊隊長・沖田総悟。
母上は、宇宙最強の戦闘民族“夜兎族”の一人・神楽。

心身とも強く、逞しい二人。
そんな父上と母上はあたしの憧れであり、かけがえのない人達だ。


しかしそんな二人には一つ問題がある。
もう何度も何度も何度も言っているように、とにかくこの二人は喧嘩っ早い。


「…また喧嘩?」


いつまでたっても子供みたいなことで喧嘩する二人。
昨日はなんだったっけ?あぁ、そうそう。“味噌汁の具について”だったな。
第三者から見たら、萎える様な内容のモノばかりだけれど
あんなに大真面目な顔して言い争えるのって逆にすごい事だと思う。


少し前に銀ちゃんに、聞いたことがある。
「二人は昔からああなのか?」と、そしたら銀ちゃんはすこーし…いやだいぶ苦い顔をして
「出会った時からあんなんだった。」と言った。
会えばメンチをきりあい、殴り合い、沢山の物を破壊するのだと。
そのたびに、銀ちゃんや新八、近藤さんや土方さんが謝りに行っていたんだってさ。

そんなに仲の悪い二人がどうして結婚まで辿り着いたのか…私には理解できない。
まぁ二人が結婚したから、こうしてあたしは生まれてくることが出来たのであって、こんな事言うのはおかしいけど。



「ねぇ、父上と母上の馴初め聞かしてよ。」



夕飯時。
いつものように喧嘩を終えた父上と、そんな父上に山盛りのご飯をつぐ母上。
父上と同じような山盛りご飯にパクつきながらそう尋ねると、二人は見事に顔をひきつらせてピシリと固まった。
どうやらこの話題は二人にとって、とても触れられたくない内容らしい。
10秒ほどの沈黙の後に目をせわしなくキョロキョロさせだして
「さ、さぁ早くご飯食べないと冷めるヨ!」などと話題を逸らそうとした母上。
父上も得意のポーカーフェイスでご飯を食べ始めるが、内心かなり動揺しているだろう。
何とも言えない微妙な空気が我が家の食卓に満ちて…このままこの話題は流れていった……。


なーんて、そんな都合のいい事が通るわけがない。


忘れないでほしい、あたしはこの二人…もといドSコンビの子供。
もちろんそう言った部分はしっかりガッツリ引き継がれている。


にんまりと二人に笑ってやり、たくあんを口に含みながら「んで、馴初めは?」と話題を戻す。
再び顔が引きつった二人に、込み上げてくる笑いをなんとか誤魔化してあたしは味噌汁にがっついた。お、今日は父上の好きな豆腐とワカメの味噌汁だ。
何も言わない二人の心の中では、きっと『空気を読めっ!』とか思っているんだろうけど、そんなの知ったこっちゃない。


「どうして付き合うようになったの?どっちから告白したの?きっかけは?いつからお互いの事好きだったの?」
「…すげェマシンガントーク繰り出してきたな、お前。」
「そりゃ、気になるからね。」
「でもなんで突然そんなこと聞いてくるアルか?恋愛事とか興味ないって言っていたダロ?」
「それはそれ、これはこれ。確かに恋とかどうでもいいけど、あたしが今興味あるのは父上と母上の馴初めだけ。」
「「…………………。」」


長い長ーい沈黙が、沖田家の食卓を支配した。
そんな沈黙を破るかのように、あたしは再びたくあんを口に入れる。

ぽりぽりぽりぽりぽり。

たくあんを食べる音だけが、辺りに響く。
二人はまだ黙ったままだ。



しばらく…といっても一分くらいだが、重い口を開いたのは父上の方。
そんな父上を、母上は目をまんまるくして凝視している。
目からは『え?お前言うのかヨ?』と訴えかけているが、父上はもう覚悟を決めたのか母上を一切見ず、あたしをただ見つめていた。
父上の赤い瞳に、あたしが映る。
自然と背筋がスッと伸びていくのがわかる。
幼い頃から、この赤い瞳に見つめられると少しばかり緊張するのだ。



「あれは…いつものように公園で喧嘩している最中の事だ。」






『うぉらぁあああぁあああああっ!!』


ブォンッと愛刀を振りかざして、沖田は神楽に切りかかる。
しかし神楽は番傘で沖田の攻撃を防ぎ、傘で刀を受け止めたまま力任せに沖田を後ろへと押し出した。
突然の押し出しに少しバランスを崩した沖田、その事に気を良くした神楽はニヤリと笑い
それから少しの間合いを取るために、ひらりと華麗に後ろへとジャンプして、着地したと同時に沖田へと全力で攻撃にかかる…予定であった。


『わっ!』


バックジャンプし綺麗に着地出来たところまでよかったのだが、そこから前へ全力疾走しようと足を踏み出した瞬間…
手前にあった石に足を取られ、今度は神楽がバランスを崩し前へ倒れこんでしまったのだ。

そこに運悪く、崩した体制を整え神楽に向かって間合いを詰める沖田の姿があり…。


ただ前へ倒れるだけしかできない神楽と急には止まることが出来ない沖田。


―ガッ!


『『っ?!!』』


そこからは想像のとおり、二人の唇はなんともありえない音を奏でて、ぶつかった。
あまりに突然のとんでもなく恥ずかしい出来事と凄まじい勢いでぶつかった痛みに二人して地面に転げまわる。
両者の口からは少量の血が出ていて、大変痛々しい。
しかしそれ以上に、神楽の心を抉ったのが……。


『んぎゃぁああぁあああっ!!わ、私のファーストチューがぁあああっ!!!』
『なんでぃチューぐれぇで。つかマジで口痛ぇんだけど…。』
『ぐらいって何アルか?!ぐらいって!!!お前にとってはどうでもいい事かもしれないけれど、私にとっては…大事なモノなんだヨ!!!』
『…そうなのかィ?』
『最悪アルぅうう…これじゃもう私はお嫁にいけないアル……。』
『……これは事故だ。だからお前の大切なファーストチューにカウントすんじゃねェ。綺麗さっぱり忘れろィ。』
『んなもん無理に決まってんダロ?!!バーカ!!!……こうなったらもうお前責任とれヨ!!!』
『はぁ?!責任って……いったいどうすればいいんでさァ?』
『んなもんお前が考えるヨロシ!!!』


それから数分間口論し、ヒートアップした結果
再び大喧嘩に発展して…結局はいつも通りに互いが悪態つきつつもその日は公園を後にした。
しかしその後町で出会ったり、公園で対面したりすると、あの事故チューが頭によぎり…全力で喧嘩できなくなった。
互いに避ける日々が一か月くらい続き、その事についに限界が来た沖田が逃げまくる神楽を一日中追い回して、結果二人は付き合うことになった。


「…ってなわけでィ。」
「えっ…何そのロマンチックの欠片もない馴初め?結局は喧嘩?なんかこう甘い雰囲気の中で告白とかは?」
「「なかった。」」
「………。」
「告白だって、『俺ァ、お前の事が多分好きだコノヤロー!』って全力で走りながら大声で叫んだもんナ。」
「多分って…。」
「あの時は私、注目の的で恥ずかしくて死にそうだったアル。」
「まぁ若気の至りってヤツでィ。」


ズズーっと味噌汁を何食わぬ顔で啜る父上。
母上はそんな父上を見て笑っている。
なんというか…こんなに胸がときめかない馴れ初めって地球上探したって無いんじゃないだろうか?
この二人に甘い展開を期待したあたしがいけなかったのだろうか…。
聞いておいてなんだが…なんだかちょっぴり残念に思いながらも、あたしは少し覚めてしまった焼き魚に手を付け、止まっていた食事を再開する。


「まぁでも、今考えたらあの時の事故チューは嫌じゃなかったねェ。」


すごい速さで魚をつついていた、あたしの箸の動きがピタリと止まる。
驚いて父上の顔を見ると、父上は普段のSっ気たっぷりの笑みじゃなく…本当に穏やかに笑って母上を見ていた。
それに開いた口が塞がらない。


「正直嬉しかった…気がする。ずいぶん昔の事であんまし覚えてねェけど。」
「私も微生物くらいには嬉しかったネ!」
「微生物って…おい。」
「でも、付き合ってコイツの事を色々知れて…私思ったのヨ、私にはコイツの存在が必要不可欠ってネ。」
「……。」
「だから結婚もしたし、こうして家族を作ることが出来たネ。」
「そうだねェ…お前とも巡り会えたし。結果万々歳だよなァ。」


二人に柔らかく笑いかけられる。
その瞳は、愛おしいものを見つめる…まさに親の目。
昔、銀ちゃんが母上に…近藤さんや土方さんが父上にしていた眼差しと同じ。


「ご、ごちそうさまっ!!」
「えっ?もう食べないアルか?いつもならあと10杯は軽く食べるのに。」
「具合でも悪いのかィ?」
「だ、大丈夫っ!!ちょっと食べすぎたからその辺散歩してくる!!!」


まだ何かを言おうとしていた二人を無視して、あたしは急いで外に出た。
夏に近づいているとはいえ、夜になるとまだ肌寒い。
だけどあのまま、あの何とも言えない…むず痒くなってくる家の中に居るよりかは外に居た方が何倍もマシだ。


「はぁー…。」


不意打ちで急に惚気話をするのはやめてほしい…。
結局はお互いが好きで好きで仕方ないんじゃないか。



「お腹すいた…。」



ぐぅう…っとお腹が何か食べ物を要求している。
そりゃそうだ。だってまだ5杯くらいしかご飯食べてない。
でも今から戻るなんて事は、絶対にしたくない。というか出来ない。無理。


「…お登勢さんの所でも行くかなぁー。」


歌舞伎町四天王の1人である“スナックお登勢”のママの顔を思い浮かべ、私はふらふらとそこへ歩みを進める。
あの面倒見のいい人の事だ、何か美味しいモノでも食べさせてくれるに違いない。
きっとそこには銀ちゃんもいるだろうし…この愚痴でも聞いてもらおう。
そんなことを思いながら、私は歌舞伎町へと向かっていった。





***



銀ちゃぁああんん、聞いてよー。父上と母上がねー。
ちょっ、お前。お腹の音うるさくて何言っているのか聞こえねぇんだけど。

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