□愛の言葉の魔法の効力はいかほどで?
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『魔法が使えたら。』とよく思う。
おとぎ話とかに出てくる素敵な魔法。
シンデレラのボロボロな服を綺麗なドレスに変えたり
ピーターパンのように自由に空を飛べたり
もしアラジンに出てくる魔法のランプを手に入れたら、まず“魔法が使えるようになりたい”と願うだろう。
…あれ?それは叶えることが出来ないんだっけ?
だったら世界中旅して、かの有名なボールを7つ集めてみようか?


「何ボーっとしてるんでィ。ちんたらしてっといつまで経っても帰れねェぞ。」


頭にポコリと軽い衝撃が来た。
それによって、ふと現実に呼び戻される。
ポンッと自分の机に何かが落ちてきたので、よく見てみると小さな小さな消しゴムが一つ。
私のではない…だがよく見かける消しゴムだ。
消しゴムを掴んで、ムッとしつつ自分の左隣を睨むと
左隣の住人である沖田総悟はワザとらしく私から目線を逸らして、口笛まで吹いている。
この野郎…白々しいんだヨ!


「おいそこの女顔。」
「お前冗談はそのビン底眼鏡だけにしとけよ?こーんないい男に向かって女顔はねェだろィ。」
「うわっ!キッモッ!!自分でいい男とか言うカ?普通。みなさーんここに痛い人がいますヨー。」
「ブチ殺すぞクソ女。」


持っていた消しゴムを至近距離にもかかわらず、奴の顔めがけてブン投げると
奴はさして慌てもせず、顔面すれすれで消しゴムをキャッチした。
その事に盛大に舌打ちしてやると、奴はフッとなんとも憎たらしい顔で笑う。俗にいうドヤ顔だ。
ちくしょう!あぁああっ!やはりこんな時に魔法が使えればっ!
そしたらこんな、へなちょこ野郎なんか一捻りなのにっ!!
…ついでに今やっている、補習もパパーッと終わらせるのにナ。
あぁ、現実は厳しい。


「古文とか将来何の役に立つネ?過去は振り返らず前を向いて歩いて行こうヨ、ジョニー。」
「そうだなァ、デイジー。俺もベクトルさんには自由気ままな方向に向いててほしいもんでさァ。」
「………。」
「………。」
「…ちなみにお前、後どれくらいヨ?」
「あ?数学3問解いたら終了。」
「なっ?!う、裏切者アル―!!私まだ10問以上ネ!!」
「オメェがぽけーっとしてっからだろィ?つかお前真っ白じゃね?一問も解いてなくね?」
「おきえもーん、何か道具だしてよォ。」
「ダメだよ、ぐら太君。道具に頼ってばっかじゃ、そのうち頭がもじゃもじゃの天然パーマになっちゃうんだよ。」
「……全然似てないアル。つか、ウラ声が気持ち悪いネ。」
「似せようとはこれっぽちも思ってねェからな。」


そう言って沖田は、スラスラと数学のプリントを解いていく。
まるで魔法のよう。


(こうやってみると、コイツ綺麗な顔しているんだよナ。)


日に照らされてキラキラ光る髪に、長い睫。
顔も整ってるし、指は銀ちゃんやゴリやマヨにしては、長くて綺麗だ。
まるで、おとぎ話に出てくる王子様みたい…。


って、いやいやいやっ!!ないないないっ!!!
コイツが王子様?白馬も真っ青で逃げていくアル!!!!
どっちかというとコイツは悪い魔法使いがお似合いアル。


「何1人百面相してんでさァ。気色悪ィ。」
「お前冗談はその腹黒な性格だけにしとけヨ?こーんないい女に向かって気色悪いはないアル。」
「うげー。自意識過剰。自分でいい女とか言うかィ?普通。みなさーんここに痛い人がいまーす。」
「なぶり殺すゾ、クソ男。」


つい数分前のやり取りの逆バージョン。
それがおかしくて私はクスクスと笑う。
あぁやっぱりコイツの隣は悔しいけど、居心地がいい。


「ねぇ、沖田。」
「…珍しいねェ、お前が名字で呼ぶなんて。どういう風の吹き回しでィ?」
「別に。気分アル。」
「へェー。」
「もし、魔法が使えたら何するアルか?」
「はっ?魔法?」
「うん、魔法。」
「…こりゃまた随分と突拍子もない事を聞いてくるねェ、お嬢さん。」
「女心と秋の空いうアル。いいから答えるヨロシ。」


沖田は机に頬杖をついて、真面目に「うーん。」と考えだした。
コツコツコツと長い指が机を叩く。
正直、コイツが真面目に考えてくれるなんて、微塵たりとも思ってなかったので私は吃驚している。
だっていつもなら『んな馬鹿な質問に答える義理はねェよ。アホチャイナ。』とか言うのに…。
なんだ?キャラチェンジか?それならもう無理だろう。なぜならコイツはSの塊。S100%だ。


「誰がS100%だ。い●ご100%みたいに言うんじゃねェ。」
「あれ?なんで聞こえてるんダロ?」
「芝居下手にも程があるだろィ。全部聞こえるように好き勝手言いやがって。」
「まーまー!小さい事は気にするなヨ!んで?何するか決めたカ?」
「…つーかこれ言って何になるんでィ?」
「もしかしたら、魔法学校から手紙が来るかもヨ?」
「来るか馬鹿。」
「ハンっ、お前って本当に夢がない奴アル。そんなんじゃ叶うモノも叶わないアルヨ。」


自分のできる最上級の馬鹿にした顔でそう言い放ってやると、奴はピタリと動きを止めた。
怒っているのカ?と思って顔を覗き込んでやると、奴はただ前を向いて黙っている。
どうやら怒っている訳じゃないようだが…なんだろう?いつもと様子が違う。


「おき…。」
「神楽。」


肩に手を置こうとした瞬間、その手をぐいっと掴まれ
あっと言う間に私は沖田の腕の中に閉じ込められる。
一瞬何が起こったのか解らなかったが、徐々に脳が働き始め状況を理解する。
私、今沖田に抱きしめられてる…?


「えっ?ちょっ!沖田、離すヨロシ!!」
「まーまー。小さい事は気にすんな。」
「小さくねーヨ!由々しき事態だヨ!!」
「…まぁ聞けよ。お前、俺が魔法使えたら何するかって聞いただろィ?」
「そ、そうだけど…それとこれと何の関係が…?!」
「最初は“お前を俺の奴隷にする”とか“土方を亡き者にする”とか考えていたけどなァ。」
「…最低アル。」
「でも、やめた。それよりも叶えたいもんあったから。」
「叶えたいもの…?」






「お前の心を俺のもんにする事。」







言葉と同時にぎゅううっと抱きしめられ、私の思考は完全に停止した。

“お前の心を俺のもんにする事”って…奴隷とかそういう事じゃないよネ?

私、自惚れてもいいのだろうか?
沖田が私をそういう風に想っていてくれているって…。

なんだか突然の事過ぎて、頭の中がぐちゃぐちゃだ。
パニックを起こしているこの頭じゃ、何も考えられないけれど…ただ一つ言えることがある。





(…んなもん魔法使うまでもないアル…。)





私の心は、目の前の悪い魔法使いに捕えられている。
それはもうずっと、ずーっと前からだ。
いつからだなんて思い出せない、気が付いたらコイツに惹かれていたんダ。



…だけどもこのままやられっぱなしじゃムカつくので、私も現実世界で唯一使えるとっておきの魔法を使うことにしました。





「好きヨ…総悟。」





愛 の 言 葉 の 魔 法 の 効 力 は い か ほ ど で ?





***



ねぇ、お前も私の事が好きデショ?
これは自惚れなんかじゃないよネ?
だって耳まで真っ赤だもの。

……私もだけれど。

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