□oath
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歩くこと数分。
不運な事件に巻き込まれること無く、無事フレイキーの家に着いた二人はとりあえず
リビングにある小さな机に向かい合って座っていました。
そんな二人の手元には可愛らしいティーカップと美味しいお茶、それと茶菓子が置いてありますが。



「…………。」
「…………。」


なんでしょうね?二人とも一向に手をつけません。
それどころかフレイキー裏の表情はどこか険しく、無言で目の前のティーカップを見つめるばかりで
あれだけ話したいことがあると言っておきながら、会話がスタートしておりません。

刻々と時間は過ぎていく中、無言であることにそろそろ堪えられなくなったフリッピーが口を開こうとした瞬間
向かい側に座って難しい顔をしている彼女が「ねぇ…。」と、ついに口を開いたのでした。


「単刀直入に聞くわ。貴方フレイキーの事、好き?というか好きよね?好き以外考えられないけど。」
「もうそれ質問じゃなくて、僕の答えは君の中で決定されてるよね。まぁ、正解だけど。」
「じゃあ貴方に聞くのもあれだけど、あの軍人もフレイキーの事を。」
「激しくムカツクけれど……アイツもフレイキーの事、好きだよ。」


見たらわかるどころか、軍人さんは結構ストレートに言っちゃってますけどね。
『フレイキーは俺のもの。』とか周りの皆に。
その事はフレイキー裏も知っています。
二人の口論はいつも『フレイキー』ですから。


ですが軍人さんがフレイキーを好きであるなら、納得できない事が彼女にはあるのです。


「じゃあ…じゃあ、どうしてあの子を殺すのっ?!!」


感情が高ぶった彼女はバンッと目の前の机を思いっきり叩きつけ、ギッとフリッピーを睨みます。
叩きつけた衝撃でティーカップは倒れ、茶菓子はお茶でぐしょぐしょになり
美味しいお茶と茶菓子は二人の口に入ることなく、ただテーブルに海を作るのでした。
しかし二人にとってそれはどうでもいい事。


「好きなんでしょう?!好きならどうして殺すの?!!」
「……それはっ。」
「…あの子はいつも言ってるの“僕が悪いから殺されるんだ”って。」
「……。」
「もう嫌なの…あの子の苦しむ姿を見るのは…………。」


くしゃりと顔を歪めて視線を下げるフレイキー裏に
フリッピーは何も言うことができません。

フリッピーという“表”の人格が例えフレイキーを傷つけていなくて
違う“裏”という人格の方が彼女を傷つけていたとしても
体は一緒なのです。


彼が彼女を傷つけている事には、違いないのですから。


「………。」
「………。」
「………。」
「………。」
「……………ごめんなさい。」


長い長い沈黙の中、何を言われるのだろうと身構えていたフリッピーでしたが
出てきたのは罵声ではなく謝罪の言葉であり、てっきりもっと罵られると思っていたフリッピーは
思わず呆けた声を出してしまいました。


「えっ…?」
「フレイキーの事を傷つけてるのは貴方じゃないのに…怒鳴りつけて。」
「それは…でも。」
「貴方は悪くないのよ、悪いのはアイツ……そうなのよ…そうなのよね。アイツなのよ、アイツのせいなのよ…。」


急にグググッと可愛らしいテーブルクロスを引き千切らん位の勢いで鷲掴みし
下を向いたままブツブツと何かを呟くフレイキー裏。
その言葉はまさに呪いのようで…というか呪いですね、まさに。


「あれ…なんだろう急に不穏な雰囲気に?」
「アイツのせいでフレイキーが傷つくの、泣くの、ボロボロになるの。憎い…殺したいほど憎いわ。」
「わー…ものすごい殺気がこの部屋に満ちてきてるね。」
「そうよ、あの子の為にアイツを消せば…。アイツを葬れば…。」
「ちょっ、ストーップ!ストップ!!フレイキーの顔してそんな恐ろしい事言わないで!頼むから!!!」
「顔はしょうがないじゃない、人格は別でも体はフレイキーなんだから。贅沢言わないでよ。」
「ぜ、贅沢なの…?それは。と、とにかくアイツの事は僕が何とかするから!物騒な事を言うの禁止!!」


頭上で×マークを作ってそう叫ぶと、納得がいかないのか彼女の表情はムスッとしてます。


「えー…どうにか出来るの?エロイことばっか考えてるってアイツ言ってたけど。」
「エロイとか今関係ないから!というか僕はそんな事考えてません!!」
「火のない所に煙は立たないって言うし。」
「本当に違うから!」
「ふーん…。」
「…話を戻すけれど、どっちにしても近い将来アイツをどうにかしないといけないんだ。僕の為にも、フレイキーの為にも。」


ふぅっと、どこか疲れた表情をしてフリッピーは言い
それからガタリと突然立ち上がり、さっと台所より雑巾を持ってきて汚れたテーブルを拭きだします。
フリッピーによって綺麗になっていくテーブル。
その姿を何も言わず、フレイキー裏は汚れたテーブルクロスを持って見つめていました。

それから数十分経ったころでしょうか?
テーブルも元通り綺麗になり、テーブルクロスは今は洗濯機の中。
後はティーカップを洗えば全てが片付くという時、片付けの際一言も喋らなかったフレイキー裏がようやく口を開きました。


「ねぇ、さっきの言葉は本当?」
「えっ……エロじゃないってヤツ?」
「違うわよ。貴方、本当はワザとでしょ?」
「違うよっ!!」
「私が聞きたかったのは、貴方がアイツをどうにかしてくれるって言葉。」
「そんなの、勿論だよ。いつになるかはわからないけれど、絶対にやってみせる。」
「そう…それなら貴方がどうにかしてくれるのを待っててあげるわ。だけど、あまりにも遅かったら私が先にやっちゃうから。」
「が、頑張るよ。」
「私のフレイキーを頼むわよ。」


ポンッと軽く肩に手を置き、ずっと硬い表情だったフレイキー裏は初めて
いつものフレイキーのようにふわりと柔らかく笑います。


(あ、同じ表情…やっぱりこの子はフレイキーの別人格なんだ。)


姿はフレイキーそのものなのに、正反対な性格や強気な表情は普段の彼女には無いもので。
でも今のような、ふとした瞬間に見せる笑顔などを見るとやっぱり彼女はフレイキーなんだと。
改めてフリッピーは思うのでした。
そんな事をフリッピーが思っているなど露知らず、彼女は「時間だ。」と小さく呟き
ひらひらと軽く手を振り、別れの挨拶をします。


「フレイキーが起きたわ。じゃあね、また会いましょう。」


その言葉の後すぐに“カチリ”という音が辺りに響き、彼女は眠りにつきました。


それから程無くして、フレイキーは目を覚ましました。

勿論、普段のフレイキーが。

目を覚ました彼女は、今日一日の記憶が無く
自分の別人格とフリッピーの会話など、勿論知りません。

記憶が無いことに戸惑うフレイキーでしたが
その事をわざわざ、彼女に伝える事などしなくてもいいと思ったフリッピーは
オロオロとしている彼女に優しく微笑み、嘘を一つほどつくのでした。


「一緒にお茶してる最中にちょっとテーブルが汚れてね。掃除してる最中に疲れたフレイキーは寝ちゃったんだよ。」
「そ、そうだったっけ?」
「忘れちゃったの?フレイキーは忘れんぼさんだね。」


クスクスと笑いながらフリッピーは何も知らない彼女の頭をそっと撫で
その後、彼の嘘を信じた彼女と一緒に汚れたティーカップを洗い
今日を平和に過ごせた二人の一日は終わりました。



どうして彼が嘘をついたかって?
それは、あの会話がフレイキーを大切に想う
二人だけの“誓い”であったからです。

だから彼女は知らなくてもいいのですよ。
これから先も、ずっとね。





◆◇◆◇



後日、再び再会。

ところで前言っていた“あまりにも遅かったら私が先にやっちゃうから”だけど…。
確かに言ったわね、それがどうかした?
あれって…どういう。
貴方ごと葬るつもりだけど?
えぇえええぇええええっ?!!


全力で頑張ってください。
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