□お帰りなさい、待ってたよ
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『拝啓、幸木町の皆様へ。


寒さもようやく衰え、若葉の美しいこのごろ
皆様、いかがお過ごしでしょうか?
私は元気に頑張っています。

早いもので幸木町から離れて、数年の月日が経ちました。
私の中の皆様は、幼い頃のままの姿で笑っていますが
きっと今では皆様、昔とは全然違っているのでしょうね。

さて、こうして久しぶりに手紙を書いたのには理由がありまして
この度、家の都合で私一人ですが、再び幸木町へと帰ってくる事になりました。

近々、引っ越してくる予定ですので
その時は、どうぞよろしくお願いいたします。

一日も早く皆様にお会いできるのを楽しみしております。


敬具』



***



ガタンゴトンと音を立てて、電車は進み
景色はドンドン都心の賑やかさから遠のき、緑豊かでのどかなモノへと変わる。


「まだかな…?」


窓を開けて、ほんの少しだけ顔を出してみる。
目的地はまだまだのようで、まだ木々しか見えない。
少し残念だが仕方ない。僕は顔を引っ込め、窓を閉めた。


「すみません、切符を拝見してもよろしいでしょうか?」
「ひゃあっ!」


突然声をかけられて僕は飛び上がる。
景色を見ていて、切符を拝見しに来た駅員さんの存在に気がつかなかった。
顔を赤くし、謝りながらも僕は鞄に大事に入れていた切符を取り出し駅員さんに見せると
駅員さんは「おっ?」と小さく驚きの声を上げたので、僕は首をかしげた。


「君、幸木町へ行くのかい?」
「え、えぇ。どうかされましたか?」
「いやね、あそこは駅から降りて、また更にバスで十分掛かるちょっと不便な所だし
それに、ちょっと孤立してる町だからあまり行く人なんて見たこと無くてね。少し驚いちゃったよ。」
「そうなんですか…?」
「あ、ごめんね!今から行く町をこんな風に言って…今の聞かなかった事にして。」


そう苦笑しながら駅員さんはパチンと“幸木駅”と書かれた僕の切符に印をつけて返してくれる。
「では良い旅を。」と駅員さんは人の良い笑みを浮かべて去っていった。
そんな中、僕は駅員さんが言った言葉が頭から離れない。


「“孤立している町”…。」


そんな風に言われているなんて知らなかった。
確かに小さな町だったけど、そんな孤立なんてしてただろうか?


「昔は…どうだったっけ?」


そっと瞼を閉じて、僕が昔住んでいた頃の記憶を呼び覚まそうとしても
どうしてだろう?町の様子が全然思い出せない。
思い出そうとすればするほど、黒い何かに記憶が塗り潰されてるような…なんだか変な感じ。
でも、一緒に遊んだ友達は鮮明に覚えている。


「みんな元気かなぁ…。」


脳裏によぎるのは、幼い頃にあの町で一緒に遊んだ友達。
記憶の中では皆、小さな可愛らしい笑顔で笑ってる。
あれから数年。
きっと皆も大きくなって、変わっているんだろう。
それに…


「…あの人は、どうしてるんだろう?」


小さい頃、大好きだった憧れの人。
何があっても僕は、いつもその人から離れなかったなぁ。
今、思えばちょっと恥ずかしいけど…。

優しくて、頼りになって…僕の初恋の人。
今でも昔と変わらず、優しい人であればいいな。


もうすぐ会えると思うとなんだかドキドキワクワクして、早く電車が着けばいいのにと思った。



***



それから更に二十分後。
電車は幸木駅へ無事到着したが、まだゴールではない。

さて、次はバスに乗らないと。

そう思いながら、最低限の私物を入れた少し重い鞄を持って駅から出ると
そこには一人の青年が僕を迎えてくれた。



「フレイキー。」



優しい優しいテノールの声。
僕より頭一つ分くらい高い身長。
色鮮やかな緑色の髪と瞳。
人の良さそうな笑顔。


途端、僕の記憶の中で一人の少年が思い浮かぶ。


あぁ、どうしてだろう。
なんだか鼻がどこかツンとして…僕、泣きそうかもしれない。



「フリッピー…。」



そう泣きそうになりながらも彼の名を呼ぶと
彼はとても嬉しそうに頷いてくれた。


やっと会えた。

僕が会いたくて会いたくてたまらなかった人。


一歩一歩ゆっくりと足を踏み出して、僕は彼との距離を縮めていく。
本当は今すぐにでも彼の胸に飛び込みたい。
だけど僕の性格上、それは出来そうにない。

のろのろと進む僕に、彼は怒らずに待っていてくれる。
やっと彼の前にたどり着いたと同時に、僕はギュッと強く抱きしめられた。



「お帰りフレイキー、すごく会いたかったよ。」



その言葉と待っていてくれていた事が嬉しくて、嬉しくて。
僕はただ「ただいま。」と小さな声で返すことしか出来なかった。





◆◇◆◇



記憶の中の彼と、今の彼。

やっぱり貴方は優しいままでしたね。

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