□登校日戦争
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季節は夏。
毎日毎日、焼き殺すくらいの勢いで照りつける太陽。
そんな中、俺たちは今夏休み中なのだが…今日は久しぶりに学校へやって来ている。


まぁ所謂“登校日”ってヤツだ。


何をする訳でもない。
ただ校長の長ーい話を全校生徒が蒸し風呂みたいな体育館の中で聞き
それが終われば教室で担任の話を聞いて、掃除して帰るといった非常に面倒で迷惑なモノ。


そんなこんなで、今現在俺は箒を片手に教室の掃除中である。


あぁ、面倒だ面倒だ。サボりたい。
つか…すげー今更だけど、なんで俺真面目に今日来ちゃってんの?
サボっていたら、クーラーがガンガン効いてる部屋で昼まで寝てる筈なのに。
自分の行動がありえねぇし。
つか夏休み中、全然皆来てねぇんだから、教室なんてそんな汚れてねぇだろ?
んでもって、後数日したら二学期が始まって始業式の後にまた掃除すんだから
…………意味ねぇじゃん。


「ダリィ…帰ろ。」


ぽーいっと持っていた箒をその辺に放置して
俺は自分の席に置いていた鞄を手に取り、後ろの教室の出入り口に向かう。
放り投げた箒はあれだ。きっと誰かが片してくれんだろ?
そうだそうだ、きっとそうに違いない。


そう自分の中で勝手に納得しつつ、帰るために廊下へ足を一歩踏み出そうとしたその時だった。


―スパコ――――ンッ!!


「いっ……てぇええっ?!!」


物凄い音と共に頭にとんでもない激痛が走る。
何だ何だ何だっ?!クソ痛ぇっ!!
頭を抱えてその場にうずくまる。
そんな俺の約1m先には、今朝何気無しに見た時は物凄く汚かったのに
今では新品の様に綺麗になった黒板消し。

それを見た瞬間、俺の頭の中で全てが繋がった。

まず俺の頭の衝撃の原因は、黒板消しを思いっきりぶつけられたから。
そしてそんな黒板消しを新品同様に綺麗にし、この俺に投げつけてきやがったのは…。


「…ペチュニアァアアァアッ?!!テメェ、いきなり何しやがる!!!」


今まさに出ようとした教室に向き直り、半分涙ながらにそう叫べば
マスクにゴム手袋という、見てる側からすれば暑苦しい…だが完全装備をしたペチュニアが
教卓の前に仁王立ちをして俺を睨んでいた。
つかあの距離から俺の頭に黒板消しをHITさせるって命中率半端ねぇなアイツ。


「サボタージュしてんじゃないわよ、リフティ。私の目の黒い内には教室が綺麗になるまで帰さないわ。」
「だからって呼び止め方に問題あんだろっ?!頭粉砕する気か!!!」
「その怠けまくった頭に刺激でも与えたら、掃除をする気になると思ったのよ。」
「なるかぁああぁあ!逆に再起不能になるわ!!」
「あーもう本当五月蝿いわね。兄弟揃って同じ反応しないでよ。」
「なんだとっ?!!………って、ん?」


とんでもない事を言ってくるペチュニアに
一言二言と言ってやろうかと思ったのだが……
あれ?今なんかおかしな単語が聞えたような?
兄弟揃ってって…どういう意味だ?
そういえば、さっきからウチの馬鹿兄貴の姿を見てねぇけど。


…………………………。


なんだか物凄く嫌な予感がする…………!!


バッと教室の窓側の一番後ろの席に目線を送る。


そこには……自分の席で目を白目にさせ、頭に見事なタンコブを作って気絶している兄貴の姿。


「兄貴ぃいいぃっ?!!」
「アンタがどっか行ってる間に逃げ出そうとしたから、呼び止めたのよ。」
「おまっ、どんだけバイオレンスな呼び止め方したっ?!手加減知らなさすぎだろ!!!」
「掃除に協力しない者に手加減など不要よ。口答えがあまりにも五月蝿かったから黒板消しを二発お見舞いしたわ。」


俺に黒板消しを見せ付けるペチュニア。
さっき俺がトイレに行っている間に、兄貴はパコーンっとやられたんだな。
あの黒板消しが兄貴を静めさせたモノなのかどうかは知らないが
とりあえず言っていいだろうか?


何て恐ろしい女だ。


「カッコイイこと言ってっけど、これ傷害事件級の問題だからな。」
「ごちゃごちゃ言ってないで掃除手伝いなさいよ。」


ほらっと再び投げつけられたのは、俺がさっき放り投げた箒。
俺が箒を受け取ったのを確認したペチュニアは、雑巾を片手に何事も無かったように教卓を拭き始めた。


「………………。」


言いたいことは沢山というか山ほどあるが…………
とりあえず口答えしない方が身の為だと、俺の頭の中で警報が鳴り響く。
これは逆らったりしたら俺も兄貴みたいになるパターンだ。
それだけは避けたい。


普段はどちらかいうと大人しいペチュニアが、掃除が関係すると鬼になんだな。
そんな意外な一面を見てしまった俺は、今だ気絶中の兄貴に目線を送り
心の中でそっと手を合わせた。





あぁ、家に帰りてぇ。





◆◇◆◇



あれ……?俺、今まで何してたんだっけ?
やっと起きたか、兄貴。
リフティ?お前、何疲れきった顔してんだよ。
どこかの誰かさんが寝てる間に、こっちは真面目に掃除してたんだよ。
ふーん…てか俺なんで寝てたんだろ?あれっ?何か担任の話以降から記憶ねぇし。
…………。
つか頭が痛てぇんだけど、何でだ?
……世の中には知らない方が幸せってことがあるんだぜ、馬鹿兄貴。

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