□彼の全力の笑顔を見た
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平和な一日が今日もまた過ぎてゆく。
そんな何気ない日常で、最近よく見かけるものがあった。



学校が終わって、家に帰っている最中。
仕事が終わり、同じように家に帰っているハンディと出会った私は
一緒に帰ることにした。(まぁ恋人同士だから当り前のことだけれど!)

今日学校でこんな事があったんだよ。とか
次の休みに二人でどこか行こう。とか
なんでもない日常のことを楽しく話している最中
“それ”は、私の目に入ってきた。


「あっ。」
「どうしたペチュニア?」


話の最中に、急に私が小さく声を上げるものだから
それを不思議に思ったハンディは一度私の顔を見た後に
今、私が凝視しているモノに視線を移した。


「なんだ、フリッピーとフレイキーじゃねぇか。あの二人がどうかしたのか?」
「えっ…あっ、なんでもない……んだけれど。」
「ペチュニア?」
「ただね、最近フリッピーがよく笑っているなって思っただけなのよ。」


そう、最近私がよく見かけるもの。
それはフリッピーの笑顔だ。


「フリッピーが?アイツはいつでもニコニコしてんだろ?」
「そうだけれど!そういうのじゃなくてっ!」


あぁ、何て言ったらいいんだろう?
確かに彼はいつもニコニコと人の良さそうな笑顔を浮かべている。
だけどそれは人前だけであって、本当は心の底から笑っていない。
これは彼をよく見ていた私が、胸を張って言えることだ。
あっ、ちなみに勘違いはしないでほしい。
別に私はフリッピーの事が好きだから見ていた訳ではなく
彼の“荒れていた”頃を知っているから、気になっていただけだ。


「…フリッピー、一時期凄かったでしょ?」
「あぁ……常にもう一人の方の人格だったな。」


フリッピーは普段は温和な好青年であるが、実は彼の中には“もう一人”の人格が存在する。
それはガサツで乱暴者で、とにかく普段の彼とは正反対!
何度取り押さえた皆が怪我を負ったことだろう。


そんな彼の人格が生まれたのは、フレイキーがこの町を離れてすぐのことだった。


あの頃は皆幼くて、世間のこと何も知らない子供であったけれど
そんな私でもわかるくらい、フリッピーはフレイキーの事を好いていた。
いや、違う。好いていたなんてものじゃなかった、まさに『依存』だ。

何をするのにも一緒。
どこへ行くのにも一緒。
あの子に絡むのは、たとえ女の子である私やギグルスにまで嫉妬する始末。
まぁそれが面白くて、ギグルスと一緒にフレイキーにちょっかいかけていたけれど。


とにかくフリッピーの中でフレイキーの存在は“絶対”だったのだ。


そんな“絶対”の存在である彼女が、突然彼の隣から居なくなる。
当然、彼は崩れた。

見る見るうちに元気がなくなり。
あまり人前に姿を見せなくなった。

心配する町の住人でなんとか彼を元気付けようと努力したけれど
どうやっても無理だった。

そうするうちに彼の精神は崩壊していき、もう一人の彼は生まれた。

日に日にその人格は姿を見せ始め、本当の彼は取り込まれていく。
このままではフリッピーは荒れ果てていき、優しい彼はやがて消えるだろう。

そんな壊れていく彼を、私たちは為す術もなく
ただ黙って見ているだけしかない出来ないのだろうと……そう思っていた。



だけど、今は。



「…色々とあったけれど、今は幸せそうだわ。」
「そうだな…。」


私の視線の先には、前と同じように幸せそうに笑っているフリッピーの姿。
それは心の底からの笑顔。

フレイキーが帰ってきてから、彼は自分自身を取り戻したようであり
精神も落ち着いてきたようで、もう一人の彼は最近あまり姿を見せなくなっていた。


彼は何とか自分で立ち直り、幸せな未来へと歩み始めたようだ。


あぁ、なんて素敵なことだろう!
私にはそれが嬉しくてたまらなかった。


「これから先もフリッピーはずっと笑っていられるよね…きっと。」
「今のアイツなら大丈夫だろ。フレイキーも居るし。」
「そうね…帰りましょうか、ハンディ。」
「あぁ、ペチュニア。」


ハンディの包帯で巻いてある逞しい腕にそっと自分の腕を絡めて
私たちはフリッピーとフレイキーに背を向けて歩き出した。



貴方の笑顔が。
貴方達の幸せが。

ずっとずっとずっと、続くように。

私たちは祈っているよ。





◆◇◆◇



でも貴方ばかりがフレイキーを独占するのは不公平だから。


フレイキー。
わっ!ペチュニア?ど、どうしたの急に抱きついて…?
んー…フレイキーって抱き心地いいから、ついね。
そ、そんなことないよ!

きゃっきゃっ。

………………。
…フリッピー、顔が怖い。


時々、妨害させてもらうわね。
フレイキーを泣かせたりしたら承知しないんだから!

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