□幸福な一時
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ねえちゃんが、村に来て数日が経った。
最初は初めての場所でビクビクしてたけれど、どうやら少しは慣れてきたようで
今では村の資料館でゆったりと本を読んでいる。らしい。

らしいというのは…つまりそういうことで。
これは全て人から聞いた情報。

大老師の名を継ぐ俺は、ねえちゃんが村に来た日より色々と面倒な仕事に追われ
ここ最近というか、全然ねえちゃんの姿を見てない。
央魔であるねえちゃんの事は心配だが、ねえちゃんにはアーウィンという冥使がいるし
何かあれば優秀な祓い手より、直に連絡が入るようになっているからひとまず安心だ。


だけども…。


「ねえちゃん元気にしてるかなぁー…。」


自分より年上な彼女だが。
なんというか、ねえちゃんは目を離していたら本当に危なっかしくて
常に見ていないと物凄く不安になる。
心配だ…本当に心配だ。

こんな俺の姿を彼女の教育係が見たら
『そんなに心配なら会いに行けばいいじゃないか。』といつもの無表情…
そしてどこか馬鹿にした感じで言うのだろう。


だけども、目の前の仕事を片付けない事にはそうもいかないだろう。


「よしっ!気合い入れて仕事してねえちゃんに会いに行くかっ!!」
「私がどうしたの?」
「っ?!」


独り言で言った言葉に、まさか返事が返ってくるとは思わなくて
声のした方に思いっきり振り向けば、そこには2つのティーカップを持ったねえちゃんの姿があった。


「ねえちゃん…な、んで?」
「ごめんね、何度ノックしても返事がないんだもの。勝手に入っちゃった。」


そう笑いながらこっちに近付いてきて、ねえちゃんは持ってきたカップを1つ俺に渡し「お茶にしよう。」と言った。
あれだけ会いたかった人が急に現れたものだから、俺の頭は若干ボーっとしている。
少し久しぶりに見たねえちゃんはとても元気そうで、何だかホッとした。


「何だか久しぶりだねぇー。」
「そうね、お仕事忙しいんでしょ?」
「んーまぁね。」
「無理しちゃ駄目よ、体壊しちゃうわ。」
「えー大丈夫だよ。俺強いし。」
「駄目!しっかり休息はとらないと!」


ぷくっと頬を膨らませながら、じっと俺を睨むねえちゃん。
それは弟を叱る姉のようであり、普段の少し頼りない彼女からは珍しい表情。
それが俺には、何だかとても可笑しかった。


「ぷっ、あははっ!」
「なっ…何が可笑しいのっ!?」
「ご、ごめっ…何か珍しくねえちゃんが年上に見えて。」
「珍しくって、私はフレディより年上よっ!」
「だからごめんってーっ!」


あんまりにも俺が笑うから、ねえちゃんはプイッとそっぽを向いて膨れっ面。
だけどね、ねえちゃん。
機嫌を損ねたフリしたって、どこか嬉しそうな表情で怒ってないのがバレバレだよ?


あぁ、やっぱりねえちゃんの側が一番落ち着くな。


「ありがとう、ねえちゃん。疲れなんて吹き飛んじゃった。」
「えっ?本当?!」
「あれ機嫌治ったの?」
「あっ…!ふ、ふんだっ!」
「あははははっ!」


穏やかな昼下がり。
平和な村に響くのは、時期大老師の少年の笑い声と央魔の少女の少し怒ったような声。

村の祓い手達は、聞こえてくる元気なやり取りに微笑ましく思いながら
仕事に戻っていく。



願わくばこの幸せがいつまでも続きますように…。



そう心の中で祈りながら。





◆◇◆◇



ところでこの紅茶美味しいねぇ。ねえちゃんがいれてくれたの?
あっ、これはアーウィンが。
っ??!!…何か変なモノ入ったりしてないよね?
えっ?そんな事ないよーっ!
…………。(激しく不安だ。)

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