□ファーストラブハリケーン
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夏休み明けの銀魂高校は、職員室を除けば巨大なサウナハウスと化すくらい蒸し暑かった。
動き回っているわけでもないのに、たらりと流れる汗を拭い
視線を自分の机から、教卓に頬杖をついてダルそうに何かを喋っている銀八にうつす。
何を話しているかは、今現在こっそりとipodで落語を聴いているため解らないが
どうせあれだ。ジャンプがどうのこうのとか喋っているんだろう。
どうしてそこまでジャンプに執着しているのか…俺には理解が出来ない。
まぁ、あの空っぽでどうしようもない頭の持ち主のことなんざ、どうでもいいが。


「おーい総一郎君、心の声だだ漏れだよ。つかワザとだろ?ワザとだよね?」
「土方のクソ野郎と同じくらい俺は興味がないのであった。」
「おぃいいいいっ!!さりげなく俺の悪口言うんじゃねぇっ!!」
「あ?なんでィ土方コノヤロー。オメーの必要以上に馬鹿デカイ声でせっかくの落語が聞こえねーだろ。苦しんで死ねよ土方。」
「ぶっ殺すぞテメェッ!!!」


少し離れた自分の席で、わーわー五月蠅い土方は無視して
俺はipodを自分のカバンの中にしまい、視線は再び銀八に戻せば
銀八は額に青筋を浮かべ、ギロリという効果音が付きそうなくらいこちらを睨んでいた。


「いい加減にしろよテメェらぁあぁああああっ!!ぎゃーぎゃー五月蠅いんだよっ!!!セミですかコノヤローっ!!!」
「いやアンタが一番うるさいからね。」


怒りを爆発させた銀八に素早くツッコミを入れるのは、地味NO1の志村弟。
ツッコミを入れた後、すぐに銀八をなだめる姿は流石というか…まぁそれしか奴に取柄は無いから仕方ないか。
ちなみに地味NO2は山崎である。


「つーかよぉ、朝礼始まってもうかなり時間経ってんじゃん。あと5分で始業式じゃん。どうしてくれんだよ、おい。」
「それならもう体育館に行かないとマズイじゃないですかっ!!」


それを聞いたクラスの少数の人間は、ガタタッという音を立てて慌てて教室から出ようとする。
しかしその行動をあろうことか銀八は「まぁ待て。」と言って阻止し、自分の口に突っ込んでいるレロレロキャンディをポンッと取り出してゆったりと教室のドアへと歩みを進めていった。
突然の銀八の行動にクラスの連中の視線は釘付けで(俺もその一人)一体何を仕出かすのだろう?と思っていた矢先…



ーバァアアアアアアンンンッ!!!



教室のドアがアニメのように吹き飛び、銀八の頭にクリーンヒットした。
立ち込める煙と銀八の悲鳴、そしてあまりに突然の事で思考が一旦停止した俺たち。
皆の目線は床にゴロゴロと転げまわる銀八ではなく、吹き飛んだドアが本来あった場所に佇む一人の女へ釘づけだった。



「おいテメェ、天パ。このクソ暑い中、いったいいつまで廊下で待たせるアルか?」



なんとも奇抜な色が、俺の視界に入ってくる。
生まれてから今まで、見たことがない鮮やかな桃色の頭に、透ける様な白い肌。
昔の漫画の浪人生がつけているような、ぐるぐるビン底眼鏡からは綺麗な青い瞳が覗いていた。



ーどくんっ



あれ?今なんか心臓が大きく動いたような…?気のせいか?
そう思いつつもそっと手を心臓部分に置くと、心臓はありえないくらいの速さで脈打っていて
その事に驚いていると、床に沈んでいた銀八が見事な復活を遂げた。


「このクソガキャぁあああああっ!頭粉砕する気かぁああああっ??!!!」
「お前がいつまでもグダグダとしてるからヨ。自業自得ネ。」
「んだとっ?!!」
「せ、先生落ち着いてっ!!頭から血が出てますよ!!」
「そうですよっ!!興奮すると更に血が出て、すぐにあの世行きですよ!そ、それより誰なんですか?!この子!!!」


頭から血をダラダラと流して興奮している銀八を、ジミーズ(志村弟と山崎)がなんとか落ち着かせ
女は教卓の横へ、銀八は銀髪を真っ赤に染めつつ黒板にデカデカと字を書きだした。


神…に楽?なんだか見慣れない字だ。


「はーい皆、注目。」
「いやもう既に注目してます。」
「うるせーよ駄眼鏡。いちいちツッコんでくるんじゃねーよ。…んで話を戻すが、皆も察しているように今日からこのクラスに新しい仲間が加わります。ほら転校生、挨拶しろ。」


銀八にポンッと背中を押された女は、その事に少しばかり不機嫌そうな顔をしたが
すぐに表情を笑顔に変えて、それはそれは大きな声でこう言った。





「中国から来た神楽アル。よろしくナ!」





太陽のような笑顔に、心臓はまた騒ぎ出す。



(なんなんだ…?これは?)



苦しくて苦しくて、でもどこか愛しい痛み。
この痛みの名は、俺はまだ知らない。





***



良く晴れた、暑い日。


君は嵐のように現れた。



そして、俺は恋に落ちました。

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