□たどり着く先はきっと幸せ
1ページ/1ページ



『高校卒業したら国に帰るアル。』


卒業式も間近に迫った、あの日。
チャイナから聞いたのは、信じられない…いや信じたくない言葉で
それからずっとあの言葉が、頭から離れない。


正直、コイツはずっとこっちに居るもんだと思っていた。


日本に残って、大学なり就職なりして…そのまま日々を過ごしていくものだと、そう思っていた。
だからだろうか?心の底で“今告白しなくったって、大丈夫だろう。”などという甘い考えでいられたのは。
卒業したって、メールさえ送れば今まで通り会うことが出来る。…そう思っていたのに。


チャイナは、俺から離れていく。


そんな現実を、すんなり受け入れられるほど俺は大人なんかじゃない。
アイツの顔を見るたびに、なんだか辛くなってきて…最近では向こうが喧嘩をふっかけてきても、それにのれなかった。
喧嘩をすればするほど、隣にある温もりが愛おしくて。
無理やりにでも、抱きしめたくなってしまうんだ。



いっそこのまま抱きしめて、感情のまま思いっきり口づけて、無理やり俺のモノにしてしまおうか?
俺から離れていかないように、離れられないように…。



そんな最低な考えが頭をよぎるが、その考えはすぐにぶっ潰す。
チャイナの笑顔を壊すような真似は、死んでも御免だ。



「…どうしたもんかねェ。」



この問題は、前に受けた警官になる為の試験よりずっとずっと難しい。



*



「仰げば尊し、我が師の恩。」


体育館に響くは“仰げば尊し”。
練習の時は恥ずかしがって全然歌ってなかった奴も、この日は大きな声を上げて歌っていた。

そう、今日は銀魂高校の卒業式。

三年間の思い出を胸に、ここに居る全員が巣立っていく記念すべき日。
出席番号順での並びなので、俺の隣はチャイナ。

チャイナは…あの転校初日に自分の名前を叫んだ時に負けないぐらいの音量で
それはそれは下手くそな仰げば尊しを歌っている。
澄んだ瞳は、涙ぐむとかそういうことは一切なく、ただ前だけをまっすぐ見つめていた。



なぁチャイナ、今お前は何を思っている?
この銀魂高校でのいろんな出来事を思い出しているのか?


思えばお前とはたくさん喧嘩して、怒ったり叫んだり笑ったりしたよな。


お前はどう思っていたか知らないが、俺はものすごく楽しかったぜィ。
モノクロだった俺の世界に、お前がいきなりドカドカと遠慮なしに入ってきて、沢山の色を付けてくれた。


こんなにもお前という存在が、俺の中で大きくなってんだぞ?いったいどうしてくれるんでさァ。



こいつは明日、中国へと帰っていく。
沢山の思い出を抱えて。
そして、キラキラ輝いた未来へと全力疾走で走っていくのだろう。


いつかお前は、俺の事を忘れちまうのかねェ?
“サド?誰だっけ?”って言うようになるのだろうか?


それは少し…いやかなり寂しいが、それでもいいか。
お前が忘れたって、俺はずっとチャイナの事を覚えてる。

恐らく俺は一生忘れることなど出来ないのだろう。
チャイナ…いや神楽の事を。





「今こそ別れめ、いざさらば。」





さらばなんて、絶対してやるものか。



*



「こんなとこに居たのか、クソサド。」


卒業式が終わり、教室で銀八からの担任の挨拶も終えた俺は、1人屋上に居た。
クラスの連中は皆、打ち上げ会場に行って今ではもう誰も残っていないだろう。
…そう思っていたのに、なんでコイツがここに居るんでィ。
誰よりも早く打ち上げ会場に行きそうなのにな…。


「まだ居たのかィ?早く打ち上げ会場にいかねェと食うもんなくなっちまうぞ。」
「いいのヨ。後からガッツリたらふく食ってやるから。」
「皿まで食べそうな勢いだな。」


「うるさいネ。」そう言って俺の背中を軽く蹴りながら、チャイナは隣に来た。
さわりと、心地よい風が頬を撫でる。


考えてみれば俺らのサボりスポットはいつもここだったな…。
今日でこの景色が見納めかと思うと、なんだか特別なモノに見えてくるから不思議だ。


「………………。」
「………………。」
「………………。」
「………………。」
「………………。」
「………………。」
「………………。」
「……おい。何か喋れヨ。」
「…うっせ、今思い出に浸っているんでィ。邪魔すんな。」
「はっ、お前にそんな人間らしさがまだ残っていたとナ。」
「うるせー。」


柄じゃないことは自分でもわかっている。
でも仕方ないだろう?

今日で最後なんだ。
今日でこの高校とも、この景色とも、…コイツの隣とも。


「明日…だな、帰国は。」
「………うん。」
「寂しいだろ?」
「うん、ごっさ寂しいネ。私、ここが大好きだったアル。皆に会えたし、たくさんの素敵な思い出も作れた。」
「……。」
「私、帰った後でも皆の事忘れないネ。絶対、絶対…忘れないアル。」
「…その中に、俺は含まれてますかィ?」
「はっ?」


我ながら女々しい事を言ってしまったもんだと後悔した。
あーあーあー、変なこと言っちまったもんだからチャイナの奴、ポカンとしてんじゃねェか。


「お前、何言ってるネ?」
「いや、どーせ俺は含まれてないだろうが…まぁ一応確認?みたいな?」
「いやだから、何言ってるアルか?」
「はっ?」
「お前も含まれているに決まってんダロ?何馬鹿な事を言ってるネ。」


ニコリとチャイナは、笑う。
俺の好きな太陽のような笑顔で。


その笑顔から、目が離せない。
離すことなど出来はしない。


「…ドSで救いようのない馬鹿だけど、お前が居なかったら高校生活もきっとつまらなかったアル。それに…。」







「初恋の人を忘れることなんて、出来ないアル。」







―っ…!


一瞬、息が出来なかった。
喉に何かが詰まっているような感覚が俺を襲う。



(今コイツ…何を?)



頭の中が答えに行き着くより先に、体の方が動き出す。


顔を真っ赤にして逃げ出そうとするチャイナの細い腕を掴んで、俺の方に思いっきり引き寄せた。
そのまま頬に手をそえて無理やり口付ける。
もう、抑えることなどできなかった。
コイツを好きだという気持ちが、溢れて溢れて…止まらない。


何度も何度も口付け、とても甘いキスに夢中になる。


やがて胸をドンドンと叩かれて、俺は名残惜しくも唇を離す。
チャイナの顔は林檎のように真っ赤で、それがとても愛おしく感じた。
もうダメだ、俺お前の事が大好きだ。どうしようもないくらいに。





「神楽、好きだ。」





「言うの遅いんだヨ。…バーカ。」とコイツは笑う。いつものように。
でもただ違ったのは、俺の背中に回された小さな手の温もり。



「向こうで待ってろ、絶対迎えに行くから。」
「…その言葉忘れるなヨ?」



ぎゅっと手を繋いで、もう一度キスをして。
そして俺らは、歩き出す。





さぁ輝く未来へ、君と二人でっ!





***



お手をどうぞ、お嬢さん。俺と幸せになりやせんか?
…離れていた期間を忘れさせるくらい幸せにするヨロシ。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ