□開いた口には戸は立たぬ
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+先輩×後輩


噂というものは、とても厄介なもので
自分の知らないうちに、とんでもない事態に陥っている場合がある。


そう、まさに今私はそんな状態で…。



「沖田先輩と付き合っているって本当ですか?」



おい、んな吐き気がする様な噂流した奴…1000発殴らせろ。



***



昼休みと言えば、私にとってはまさに至福の時間。
ちんぷんかんぷんな授業を聞かなくてもいいし。
美味しいタコさんウインナーいっぱいの弁当は頬張れるし。
ぐーすかと昼寝も出来る。
そんなこんなで同じクラスの大親友である、そよちゃんを誘い
うきうきルンルンで自分のベストプレイスだと思っている屋上へと軽くスキップしながら向かうと…。


「チャイナ―。」


私の超プリティな名前を、気怠さそうに呼ぶ声が一つ。
反応したくなんかないのに、条件反射で名を呼んだ奴の方をキッと睨みつけると
そこにはドSな笑みを浮かべた、憎いあんちきしょーの姿。


「これから私の幸せタイムが始まるってのに呼んでんじゃねーヨ。胸クソ悪いネ。」
「その幸せタイムを更に幸せにしてやろうと、俺が協力してやってんじゃねェか。」
「幸せどころか、不幸になってんダヨ!この疫病神っ!!」
「あー今ので俺のガラスの心にヒビが入ったー。どうしてくれんでさァ。」
「ガラスだったら一度ゴナゴナにして溶かして冷やせば元通りネ。良かったナ。」
「うわームカつく、このクソ女。」
「そのセリフそっくりそのままバットで打ち返すアル、このクソ男。」


延々と続くこのくだらないやりとりを私と繰り広げるのは、私より2つ上の先輩である沖田総悟。
成績優秀、スポーツ万能…性格に難ありだが、それをものともしない程に顔が良いもんだからこの高校では「王子」と呼ばれている。
しかし私からすれば、コイツはただのアホ。それが王子なんて…プププ。バッカみたいだ。

私たちの出会いは、遡ること5年前。
当時中学生だった私の馬鹿兄貴が、クラスメイトで友達の沖田を家に連れてきたのが出会いだった。
……思えば、出会った当初から今みたいなグダグダな感じのやり取りをしていた気がする。
ちなみに馬鹿兄貴と沖田は今でも仲が良いらしく、高校は違うけれども学校帰りとかによく遊んでいるらしい。興味がないケド。

まだ何かを言っている沖田を無視して、ちらりと近くの教室に立てかけている時計を見ると
昼休み開始からすでに5分は経っている。
なんてこったい!コイツのせいで5分も時間を無駄にしてしまった。
こうしちゃいられない!と隣で私たちのやり取りを聞いてクスクスと笑っていたそよちゃんの手を引っ張って、急いで屋上へと向かう。
すれ違いざまに沖田にあっかんべーをしてやると、奴も舌をべっと出して自分の教室へ戻っていった。
相変わらずムカつく野郎だ。全く。




「ふー…やっとこさ弁当が食べられるアルー。」




ふんふんと鼻歌を歌いながら、弁当の包みを開けていくと
私の視界に入るのは愛しのタコさんウインナー!!あぁなんだろうこの幸福感…さっきまでのイライラが嘘のようだ。
いただきまーす!と私は、実は本日5個目の弁当にがっついた。
そよちゃんは豪華だけども、とても小さい弁当を上品に食べている。
さわさわと気持ちのいい風が髪を揺らして、なんだかとても昼寝がしたい。
あーでもなぁ…後もう少し胃袋に空きがあるので、購買にダッシュでパンでも買ってこようか?昼寝はその後でもいい。
もぐもぐと弁当を食べながら、そんなことを思っていると、ふいにそよちゃんが「そう言えば…。」と言葉を発した。


「どうしたアルか?」
「少し前に耳にしたお話なんですけれどね。」
「うんうん。」



「神楽ちゃん…沖田先輩と付き合っているって本当ですか?」



ガッシャンと自分の弁当が音をたてて、落ちていった。
まだ半分とちょっとしか食べてないというのに、せっかくのタコさんウインナーも屋上のコンクリートと熱烈チューを繰り広げ
私の口の中にINする予定だった愛しいモノ達は全て遠くへ旅立ってしまった。
あぁでも3秒ルール………というか今それどころではない!たった今起った大事件を解決しなければ!!


「ちっがぁあああぁあぁあうっ!違うネ!なんでそんな恐ろしい事になってるネ?!私と、アイツがつ、付き合って…うげぇえ!」
「…その反応だとやはり違うようですね。」
「当たり前アル!うわっ鳥肌たってきたネ!!」


自分の腕をさすり私は、耳に今だに残っているそよちゃんの言葉をかき消さんばかりに頭を振る。
私とサドが付き合っているだって?あ、ありえなさすぎて…なんか笑えない。


「どうしてそんな話が急に出てきたネ?!」
「噂で聞いたんですよ。最近皆さんの間ですごい話されてますよ?」
「し、知らなかったネ…。」


誰だ、そんなおぞましいデマを言い出した奴は!!
見つけ次第4分の3殺しアルッ!!!
…ちょっと待てよ?ということはアイツの耳にもこの噂は入って……?
いやいやいやいやいやいや!そうじゃないかもしれない。そうじゃない事を祈ろう!


「あ、ちなみに噂の発端者は沖田先輩だという話です。」
「おぃいいいぃいいいいぃいいっ?!!」


耳に入るどころか、アイツが犯人んんんんっ?!!
ふざけろよォオオォオ!!何考えているアルかっアイツは??!!!
殴る…1,000発と言わず1,000,000発ぶん殴る。


「でも……神楽ちゃんと沖田先輩、とてもお似合いですよ?」
「えっ…?」
「だってお二人共、喧嘩している最中いつも楽しそうですし。」
「た、楽しくなんか…。」
「そうですか?」


本当に?
そよちゃんは静かに…すべてを見透かしているような口調でそう問いかけた。


そんなの、そんなの楽しくないに決まってる…。


楽しくない筈なのに…言葉にして発することが出来ない。


だってアイツはいつも私を馬鹿にするし、女扱いはしないし、下ネタも平気で言う。
ムカつくし、いつだって殴りたいし、変態的なことしか言わない口もテープで塞ぎたい。
…でも優しいところも知ってるネ、本当は良い奴なんだってのも長い付き合いで知ってる。


だけど、本当にそれだけネ。…奴に対して想う事は。
何を思って沖田がそんなデマを話したのか知らないケド、きっと嫌がらせなんじゃないだろうか?
そうだとしたら…殺ス。ブッ殺ス。



―じゃあ、もし嫌がらせじゃなかったら?―



……その時は、私はいったいどうするのだろうか?



「………なんか頭痛くなってきたネ。」



考えれば考えるほど思考の迷路に迷っていく。
…どちらにしても、沖田に直接会って話をしない事には真相は永久に闇の中だ。




とりあえず、次に奴の顔を見た時には、何も言わず一発ぶん殴ろうと心に決め
私はゴロリと、冷たいコンクリートに寝ころんだ。





***



真相解明まで、あとどのくらい?

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