□青年の苦難はいつも身近から
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「なぁ、リフ。お前ってさ好きな奴とかいねーの?」



それはバカ兄貴の一言から始まった。



***



「はっ?」
「だから好きな奴。」


人が一生懸命、次の盗みの作戦を練っているというのに
このクソバカ兄貴は一人ソファーで寛いで雑誌を読み
目線は雑誌に向けたまま、唐突に意味のわからんことを聞いてきた。


………なんなんだコイツ?頭大丈夫か?


こういう無意味な質問に答える必要はねぇな。時間の無駄だし。
とりあえず無視だ無視。


「なー聞いてんのか?」


聞いてません。話しかけないでください。


「そうかそうかいねーのか。だからこんな真昼間からひきこもっているんだな。」


いねぇのはテメェも一緒だろ…!
だいたい計画性ゼロ、直感のみで動く無鉄砲なバカ兄貴のせいで
俺がこんなにも頑張って作戦を練っているというのに…ブチ殺してぇっ!
イラつきで力が入り、持っていたペンがミシミシという音をたてる。
いっそのこと、このバカの頭にペンを刺してやろうか?少しはマシになるんじゃねーか?


「よっし、わかった!可哀想なリフちゃんの為に優しい俺様が一肌脱ごう!!」


バサッと読んでいた雑誌をその辺に放り投げ、スクッとソファーから立ち上がった頭空っぽ兄貴。
チラリと横目で見たその表情は、何か悪戯を思いついた時の顔で……。
あっ、ヤバイ…あれは止めないと面倒な事になる……!


「ちょっ、おいっ!余計な事は…。」
「待ってろよ!すぐ帰ってくっからな!!」


面倒なことになる前に阻止しようと伸ばした手は空を掴み
暴走モードの兄貴は素晴らしいスピードで家のドアをバーンッと開け放ち
ぴゅーっと風のように駆けてどこかへ行ってしまった。


「………………。」


そして一人残される、俺。


ま、まずい…非常に不味い!
アイツのことだ、きっとろくでもないことを思いついたに違いないっ!!
ど、どうすればいいっ?!落ち着け俺!!
…焦っていてはいい考えなど思い浮かばないぞ。
とりあえず、深呼吸して…。スーハー。
そうだ、兄貴が帰ってくる前にここから逃げ出すのってのはどうだ…?
いやそれは無理か。アイツのことだ、逃げ出した俺を面白がって探しに来るに違いない。
職業上ただでさえ町の中をウロウロするのは避けたい事なのに
その際にあのウザい英雄なんぞに出会ってみろ、さらに面倒なことになるだろう。
だったら逃げずにこの場でなんとか対処するしかねぇってことか。
心の底から乗り気じゃねーが……よしっ!やってやろうじゃねーか。



「……………。」



それから1時間は経っただろうか。
すぐ帰ってくるといったあのアホは今だ帰ってきてない。
人がせっかく意気込んで待ってるってのに、空気読みやがれあのアホ。
なんだか気が抜けた俺はガタリと椅子から立ち
コーヒーメーカーに作ってあったコーヒーを綺麗な空のカップに注ぎ、コクリと一口飲む。
やっぱコーヒーはブラックだよな。と何気なしに思っていた時だった。


「待たせたなリフッ!!」


出て行った時と同じようにバーンッとドアを開け放ち、バカは帰ってきた。
あぁ、ついにこの時が来たか。全然待ち望んでなかったがな。
とりあえず『ドアを壊すつもりかっ!』と一言怒鳴ってやろうと思い
キッと兄貴を睨むと、そこには…。



「あ、あの…こんにちわリフティさん。」



少し恥ずかしそうな、それでもって少し困った表情をした赤毛の臆病者がそこには居た。


「えっ…?」


えぇええええぇえぇええっ?!なんでフレイキーがここにっ??!!!


訳がわからなくなってバッと兄貴に目線を送ると、兄貴は物凄い笑顔で俺にピースサインをしてきた。
いやっピースじゃなくて、これはいったいどういうことっっ?!
キチンと説明しろぉおぉおおっ!!


「悪いなフレイキー、急に呼んでよ。」
「いいんです、僕今日は特に予定無かったので。」
「そうか、ありがとよ。」


いやいやいやいやいやいやっ!
ちょっ、勝手に二人で話し進めるのやめろっ!
俺にもわかるように話せよっ!!
とりあえずバカ兄貴をこっちに来させて、この状況を説明させねーと!
そう思って、兄貴に声をかけようとした時だった。

あろうことか兄貴はフレイキーの肩に手をポンッと置いて
満面の笑みでとんでもない爆弾を投下したのだった。





「さぁフレイキー、リフの話し相手になってやってくれ。」





その後すぐに、俺があの地上最強のバカにジャーマンスープレックスを繰り出したのは言うまでもない。
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