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□再び。U
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一週間後。

「こんにちは。」ハルが約束通り事務所に訪れると落ち着いた様子のバロンが出迎えた。

「やあ、ハル。よく来たね。座ってくれ。」
言われた通りに座ると紅茶が出され、しばらく二人で静かに飲んだ。

爽やかな香りが立ち上る室内で二人は異常なほど静かに対面して座っている。

「さて…ハル、その後変わりはないか?」
やがて沈黙を破るように、カップを置いたバロンが少し緊張した面持ちで尋ねた。

「あ、うん。あれから耳もしっぽもはえてきてないよ。大丈夫。心配してくれてありがと」
ペンダントが原因じゃなかった場合を考えて経過を聞くために呼んだんだ、とハルが思っている横でバロンはそれは良かった、と柔らかい微笑みを向ける。

「それと、もうひとつなんだが…」
そこでバロンが少し言葉を詰まらせた。
口元を抑え、心なしか頬が赤い。
そしておもむろに立ち上がるとバロンにとっては一抱えもある黄色い箱を取り出してきた。ハルの前に差し出され、綺麗に包装されたそれはどう見てもプレゼントだ。

「ハル、受け取ってくれないか?」
何だろう、と首を傾げているとバロンがそう告げた。

「えっ…私に?」
驚いて確認するとバロンはそうだよ、と頷く。

「今日は私の誕生日でもクリスマスでもないよ?」普段プレゼントを行事の時にしか貰わないハルは困惑したように呟く。
そんな困惑したハルを安心させるように良いんだよ、とバロンはさらに箱を差し出した。

「ありがとう…。」手のひらに乗るくらいの小さな箱を受けとる。

「開けて良い?」
もちろん、とバロンが頷いたのを見てハルは青いリボンをほどき、黄色い包装紙を慎重にはがした。
包装用の箱のさらに中に表面がビロード風の小箱。

「これ……」
小箱をそっと開けてみるとパープルの光を纏ったプラチナの指輪が入っていた。

細やかな装飾が施されたそのトップにはアメジストが静かに存在感を放っている。

「バロン!こんな高そうなもの…っ」
明らかに高価な指輪にハルは慌てふためき箱を戻そうとする。

「受け取ってくれ。君の願いは私の願いでもあるんだ。」

「願い…?」
願いとは、『バロンともっと近い存在で居たい』と思ったあの願いだろうか。
それはつまり。

「ハルが望むような近い存在というのがどういったものなのかは推測の域を出ないけれど、私が考えうる最高の方法で君を近しい存在に出来れば…と思ったんだ。」
つまり、その…とバロンは一瞬言葉につまり、意を決したように面をあげると一言。

「これからもずっと私の傍にいれくれないか?」
回りくどい言い方に思わず苦い笑みを溢すハルにバロンは頬を朱に染めたままで、「プロポーズだと思ってくれて構わない」とハルに告げる。
「本当に良いの?」私で、という言葉はのみ込む。

「もちろん。良ければハル、それを嵌めてみてはくれないか?サイズは合わせて購入したつもりなんだが」
もちろん左手の薬指にだよ、と念を押すバロンにハルは頬を赤らめた。

「うん…ぴったり。」どう?と手を翳して見せたハルに「とても似合うよ」とバロンは優しい微笑みを向ける。

「つけたからには了承を得たと思っても構わないかな?」

何の、とは聞く必要はない。
頷くとバロンは悪戯めいた笑みを浮かべ、外さないでくれよ?と笑った。
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