過去拍手文

□明日はきっと晴れになる
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「はっ…は………っ雨が……」

走り続けてハルを探しているうちに空には雲が立ち込め、曇天に変わってついにぽつぽつと小雨が降り始めた。

彼女は…ハルはこの雨の中、どこにいるのだろうか。

冷たい雨に濡れて寒い想いをしているのではないか。

私の言葉に傷ついて、この空のように泣いているのだろうか。

「ハルっ…!」分岐した道でどちらに曲がるか悩んで、左に脚を向けた。

***


「あ、雨…」

猫の事務所から逃げるように滅茶苦茶に走って、空から落ちる雨粒に気付いたのは身に纏った衣類がしっとりと肌に張りつくくらいになってからだった。
それほどに、降り注ぐ雨に気付かないほど自分は夢中で逃げていた。

事務所から。彼から。…バロンから。

『君は此処の人形にでもなったつもりか!?』『君は…外の人間だ。勝手なことはしないでくれ』
そう言ったバロンの声が頭の中で反響する。

知らない小道を走っていた脚が自然に止まり、足下をぼう、と見つめた。
ショックを受けなかったと言えば、嘘だ。

自分は外の`人間´であることは百も承知だ。
彼らと、事務所の面々と明らかに違うのは自分は`異なる世界から来た者´で彼らが`心を持った物´であること。
絶対的な違い。
でもそんなことはハル自身は気にも留めていなかった。
少なくとも、ハルは。今でも。

「バロン怒らせちゃったなぁ…疲れて…イライラしてたんだろうなぁ…」

地面を見つめたまま、壁に背をつける。

「もっと速く気付けてれば良かったな…そしたら…」

気休め位には出来ることがあったはずだと思う。少なくとも、お茶を淹れるくらいは。

「私って…ダメだなぁ…疲れてるバロン気遣ってあげられないなんて。」

バロンにかけられた言葉そのものよりも、疲労にいつもの自分らしさを失っていた彼を気遣えなかった自分にショックを受け、寂しさを覚える。
 
「今も一人で帰ることだって…出来てない。」
事務所と『外の世界』を繋ぐ道はそんなに長い道のりではない。
むしろ、事務所から外の世界へ向かう道は行きの時より短いくらいなのに。

めちゃくちゃに走って、自分がどこにいるのかさえも分からないようにしたのは、一握りの希望と甘えから。

(私、バロンが迎えに来てくれるんじゃないかって…探してくれるんじゃないかって期待してるんだ…)

そのことに気が付いて、自分のその邪な心に気分が悪くなった。

(…うっ)
気分の悪さがそのまま身体に影響を及ぼし始める。
急激に吐き気を催し、立ち上がっていられなくなった。
壁に背を預けたまま、ハルの身体がズルズルと崩れ落ちる。
「ぅう〜…」
小さく、獣が唸るように声を漏らす。
拳を口に当て、声が出ないようにすると生暖かい物が頬を伝った。(どうして…)
頬に伝う生暖かい物が涙だと理解して涙を流すことすら、罪悪感を感じる。


 
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