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□きみだけをみてる
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「サッカー?」
今回の物語はハルのこの一言から始まる。


***


「それで?ハルはそのサッカーの試合に出場することになったのかい?」
出来立ての熱い紅茶を渡しながら聞いたバロンにハルはうん、と頷いた。

「正式に言うと体育祭の女子サッカーなんだけどね、私サッカーやったことないから…」
体育の時間に行われた練習の事を思い起こしたハルが苦い記憶に苦笑を漏らす。

言ってしまえば燦々たる練習風景だった。
ボールを蹴ろうとした足は見事にボールの横を素通りし、掠りすらしなかった。
運動神経はそんなに酷いと言うわけでもない(と自分では思っている)のに何度やってもボールは巧く蹴れなかったのだ。

「バロンはサッカーやったことある?」
ハルの質問にいや、と答えたバロンがどんな球技なんだ?と質問を重ねる。


「ん〜。私もよく知らないんだけど、何人か複数でチームを組んでパスしながらボールを自分のチームのゴールに入れるんだって。ルールにキーパーっていうゴール前で邪魔する人以外はボールを手で触っちゃいけないってルールがあるらしいんだ…」
既にこの時点でだいぶ話がややこしい。そう思っていたバロンとハルの間に突然声が割って入った。

「俺、知ってるぜ。」
その声にハルだけでなくバロンも驚いたように声の主に視線を向ける。

二人の視線の先にはムタ。
到底スポーツとは縁が無さそうな、ムタ。

「…ムタ。本当か?」信じられないといった風に問いかけるバロンに「失礼なやつだな!」とムタが腹をたてた。


「いや…すまない。君がスポーツをする風景が思い浮かばなくて…」

「オイ…お前一回ぶん殴られたいのか?」
ゴゴゴ、と後ろから黒いオーラを放つムタをまあまあ、とハルが宥める。

「で、ムタさんはサッカーやったことあるの?」気を取り直して質問したハルにムタは無い!と言い切った。

「けど、ボールの上手い蹴り方なら知ってるぜ。足の側面で打つんだ。ボールってのはつま先で蹴っちゃあいけねぇのよ!」
自慢気に語るムタにほぉー、とバロンが相槌を打つ。

「ね、せっかくだからムタさんがコーチしてくれない?聞くよりもやった方が分かりやすいし!ボールも借りたのがあるから」
どこから出したのか両手でボールを持ったハルがムタをサッカーに誘う。
「まあ…教えるだけなら良いけどよ。よっしゃ!外に出ろや!練習するぞ!」

うん!と外に出ていったムタとハルがしょんぼりと肩を落として帰ってきたのは数分後だった。


「ここまで体格差があると絶望的だよな…」ムタが呟いた言葉にうん、と弱々しく頷くハル。
どうやらその体格差から練習にもならなかったらしい。

「やれやれ…どれ、ムタ。私が相手をしてやろう。…ハル。君は私とムタの動きを見てから練習してみなさい。」
そういってどこから取り出したのか、自分のサイズに合ったボールを持つバロン。

「え?バロン、サッカー知らないんだよね?」
彼の言動にハルは頭に?を浮かべる。
そんなハルにバロンは事も無げに答えた。

「ああ。君たちが外で練習している間に書物でサッカーについて調べてみたんだ。ある程度は覚えたから問題ないよ」
ほら行くぞ、とムタを急かしたバロンの瞳がいつもより輝いて見えたのは気のせいだろうか?


***
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