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□不安な日。
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ふと、君に興味が無くなったりすることがあるのだろうかと想像して怖くなったことがある。

そんなことあり得ない、と打ち消した思考は妙な余韻を残して千千に散っていって。

頭の中で誰かが囁く。どうしてあり得ないと断言できる?と…。


――――――――――――――――――――

「バロン…どうしたの?ぼーっとしちゃって。疲れた?」
そう問うハルは、学校からの帰り道で事務所に寄ったために制服で。
以前は夏服だったが紺のブレザーを着た冬服もなかなか愛らしくて良い、と思ったのはまだ記憶に新しかった。

「ああ…何でもないよ。少し考え事をしていただけだからね…」

そういってみたものの、疲労が溜まっていたのも確かで。
心配をかけまいと言ったのが仇となったのか眉尻を下げていたハルは嘘、と呟く。

「私に心配かけさせないようにって嘘つくのはやめて。…少し休んで?ね?」

涙目で上目遣いにお願い、と囁くハルの破壊力は計り知れない。
わかった、とあっさり降参すると彼女は嬉しそうに微笑んだ。

「…じゃあ私は奥にいるから。何かあったらすぐ呼ぶんだよ。」
うん、と優しく微笑んだハルに…彼女の笑顔
に少しだけ救われるような思いを抱く。

こんなにも優しく、愛らしい彼女。
守るべき恋人。
自分が命をかけても護りたい女性(ひと)。

そんな彼女に好意を抱かなくなる日など来るのだろうか?
ましてや、興味を失うことのある日など、来るのだろうか。

そんなことを考えていると扉の向こうでムタ達と何かしているのかガタガタと何かが崩れるような音がした。

(まったく…何を崩したんだ?)
隣の部屋に戻ろうとドアノブに手をかけると掴んだドアノブが固く、回らなかった。

先ほどまではちゃんと回っていたのだから残る選択肢は扉の向こうで誰かが押さえつけているということ。

「…ハル。扉が開かなくなってしまったみたいなんだがそちらから協力して開けてはくれないか?」
扉の向こうでドアノブを押さえているであろうハルに呼びかけるとぐっ、と唸ったような音がして、だめ、弱々しく返事が返ってきた。

「何故駄目なんだい?」扉に額をつけて彼女の返事を待つ。
しばしの沈黙の後、まだ見せられないの、とか細い声で返事があった。

「まだ見せられないの。お願い…部屋で休んでて?見せられるようになったら呼ぶから。」
つまり、それは…
「ハルが呼びに来るまで私は部屋に居てもらいたいということだね?」
うん、と応えたハルにバロンは肩を落とす。

呼びに来るまで部屋から出るな、ということはそれまで仕事を片付けることも出来ないということだ。
書類の類いを持ってきておけば良かったか、と考えていや、と思考を打ち切った。

どうせ書類を持って行こうとしたならばハルが止めるだろうし、彼女が何かの準備をしている間、休めという言外の配慮だと思うことにする。

「それはどれくらいかかるのかな?」
聞くと一時間くらい、と返事があった。

「…分かった。じゃあ、一時間経ったら起こしてくれ。」

何を企んでいるのか知らないが気の済むようにやらせようと思う。

突き放し気味にそう思うのは疲れているせいだと自分に言い聞かせてバロンはベッドに横たわった。

(こうしてベッドに横たわるのも久しぶりだな…)
思えばここ一週間働きづめで机の前でうたた寝するくらいしか睡眠を取っていなかった。

(あまり急を要する依頼はやりたくないものだな…)
緊急性の高い依頼ならその分仕事の時間は増えてしまい、ハルと過ごす時間が短くなる。そのうえ、彼女に無用な心配をかけさせてしまうことは明白だった。
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