pkmn短編小説
□啄んだら溶けそうになった
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啄んだら溶けそうになった
あつい…
俺は今エアコンの効いていない廊下を、資料が大量に入ったダンボールを持ちながら歩いている。
「(クッソ…重てぇ!)」
顔から汗が滴り落ちていくが、ダンボールで両手が塞がっている為、拭うことができない。
何故こんなに暑い思いをしといるのかというと、ポケモンを悪いことに使うための研究費が馬鹿みたいに掛かるからだ。
それを稼ぐためにこういうところからケチっていかなきゃならないのがツラい。
すると、少し先の曲がり角から人が出てきた。
その人物は俺を視界に入れると、笑顔で近づいて来る。
「(あ…先輩だ。)」
ここの組織で先輩なんてのはゴロゴロいるが、この人だけは、違う。
いわゆる、あれだ、まぁ、その、俺にとって"特別な人"、そういう訳だ。
そして今そんな人が笑顔で近寄ってきてくれている。
背筋を伸ばし爽やかな笑顔で颯爽と歩いて来る様は、思わず見惚れてしまう。
途端に、体中を暑さ以外の熱が駆け巡る。
顔があつい。
「よう、ここにいたのか。探したぜ。」
「え…?」
「ほら、見ろよ。同僚とポケモン勝負に勝ってな。アイスたんまり手に入ったんだよ。」
そう言って先輩はガサリと手に下げていたビニール袋を揺らす。
「(先輩のバトル見たかった…!)それは、おめでとうございます。」
「おう、さんきゅ。」
無邪気な笑顔で答える先輩が眩しい。
「それでだな、この大量のアイスみんなに配ろうと思ってな。もう同じチームの奴にはお前以外全員渡したから、あとはお前だけなんだよ。」
今日はなんてツイているんだ!このクソ暑い中重い資料運んでて良かった…!
「けど、今は持てねぇか。」
良くなかった。
俺は一気にテンションが下がる。
先輩は少し考える仕草をして。
「…うーん、しゃあねえ、ホレ、あーん。」
「!」
思わず言われるがまま口を開けて、先輩手ずからアイスを食べさせてもらってしまった。
少し溶けかけた冷たいアイスはソーダの味がした。
「よし、俺はまた他の奴に配りに行くわ。じゃあな。」
先輩はそう言い残すと来た時と同じ様に颯爽と去っていった。
そして、その姿が曲がり角の向こうに消えると同時に俺はその場にへたり込んだ。
頭の中でさっきの出来事が延々とリピートされる。
口の中で溶けたアイスを飲み込むこともできないくらいの衝撃が俺を襲っていた。
(幸せすぎて、溶けちまう!)