だからどうかぼくをあいして。

▼書込み 

12/02(Sun) 21:43
SSS

和志のことはそれなりに好きだったと思う。少なくとも、愛しているかどうか聞かれて即答できるくらいには。ただ、それが恋愛感情かと聞かれると、頷くことはできない。まあ、彼と私はそもそも恋愛する気がないのだけれど。

だって、彼と私は。

「姉さん、そろそろ服着たら?」
「……ん、そうする」

少し甘ったるいその声に促されるまま、私は放られていた下着を手にとる。


和志と私の関係が幼なじみからこの不毛で甘美な関係に変わってもう5年になる。年下の私を姉と呼ぶ和志は、その実私なんかよりずっと大人びているけれど、それでもふとしたときに見せる笑顔は幼いころのまま。それにほだされているだけ、そう言い訳しながらこの関係を継続させてはいるものの、良くないことだとは思っている。思ってはいるが、嫌じゃないので未だに続いている。けれど、お互い心の片隅にひっかかっているものには気づいているのだ。
そもそも和志と関係を持つようになった発端はなんだったろうかと継ぎ接ぎだらけの記憶をたどれば、ああそうだ、高校生のときだったと思い出した。あの冬、何があったかは忘れてしまったけれど、どうしてか和志が泣いていて、見ていられなくて抱きしめたのがはじまりだった。なし崩し的に私のはじめてのひとになった和志は、たいしたことない私の裸体を、ただただ悲しそうな目で見ていた。今思えば、大人な和志のことだ、そんな形で私が処女をなくしたことに感じるものがあったのかもしれない。私にとっては至極どうでもいいことだったのだけれど。だって恋愛と性欲は別物だ。女だって発情する。泣いてる男を抱きしめて鳴かされて何が悪い。何も悪いことなんてない。なんて背伸びして悪女めいた思想で誤魔化した。そういうことにしておきたかった。

和志は彼女ができてもかわらず私を抱いた。私は彼氏なんていなかったので拒まなかった。いや、彼氏がいても拒まなかっただろう。その頃にはもう、私と和志の不毛で甘美な関係は必要不可欠なものにすら思えていて、最早互いに依存しているといっても過言ではなかったからだ。
だから未だに、私と和志は体を重ねている。

「あ、」
「どうかした?」
「水野からメールきてた」

私の同居人で親友の水野は、和志と同じ職場で働いている。和志とも仲が良いので、ついこの間も三人で飲みに行ったばかりだ。勿論、水野は、私と和志の関係なんて知らない。

「なんて?」
「夜ご飯間に合わないから先に食べてていいよって」

ほぼ毎日引き込もっているようなフリーターの私と違い、水野はいつも忙しい。最近では会えない日の方が多かった。仕方ないことではあるけれど、一人の夜は苦手なのだ。どうしようか。

「泊まってく?」

見透かしたように和志の腕が背後から伸びてきて私を抱きしめる。素肌に感じる体温が心地好くて少し笑った。

「んーん、帰る」

夜ご飯に間に合わないだけで、帰宅できないとは書かれていない。適当に夜更かししていればそのうち帰ってくるだろう。

「送る」
「いらない」

忘れてはいけない。不服そうな顔でわざとらしく私を睨んでくる和志は、職場で一番人気の美人な彼女がいるのだ。私と噂になったり、あまつさえ関係が暴露されてしまえば致命傷だ。修羅場に巻き込まれるのは遠慮願いたい。

「またね、姉さん」
「ん、また」

細心の注意を払ってマンションを後にする。犯罪者の気分だった。

【スウィート・メランコリィ】




―――――――――――

あなたがすきなわけじゃない。あなたをきらいじゃないだけ。なんて。


2012/12/02 kyo

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