だからどうかぼくをあいして。

いきているからあたたかいのよ。
(彼女はそう言って息絶えた)

[書込]

12/02(Sun) 21:43
SSS

和志のことはそれなりに好きだったと思う。少なくとも、愛しているかどうか聞かれて即答できるくらいには。ただ、それが恋愛感情かと聞かれると、頷くことはできない。まあ、彼と私はそもそも恋愛する気がないのだけれど。

だって、彼と私は。

「姉さん、そろそろ服着たら?」
「……ん、そうする」

少し甘ったるいその声に促されるまま、私は放られていた下着を手にとる。


和志と私の関係が幼なじみからこの不毛で甘美な関係に変わってもう5年になる。年下の私を姉と呼ぶ和志は、その実私なんかよりずっと大人びているけれど、それでもふとしたときに見せる笑顔は幼いころのまま。それにほだされているだけ、そう言い訳しながらこの関係を継続させてはいるものの、良くないことだとは思っている。思ってはいるが、嫌じゃないので未だに続いている。けれど、お互い心の片隅にひっかかっているものには気づいているのだ。
そもそも和志と関係を持つようになった発端はなんだったろうかと継ぎ接ぎだらけの記憶をたどれば、ああそうだ、高校生のときだったと思い出した。あの冬、何があったかは忘れてしまったけれど、どうしてか和志が泣いていて、見ていられなくて抱きしめたのがはじまりだった。なし崩し的に私のはじめてのひとになった和志は、たいしたことない私の裸体を、ただただ悲しそうな目で見ていた。今思えば、大人な和志のことだ、そんな形で私が処女をなくしたことに感じるものがあったのかもしれない。私にとっては至極どうでもいいことだったのだけれど。だって恋愛と性欲は別物だ。女だって発情する。泣いてる男を抱きしめて鳴かされて何が悪い。何も悪いことなんてない。なんて背伸びして悪女めいた思想で誤魔化した。そういうことにしておきたかった。

和志は彼女ができてもかわらず私を抱いた。私は彼氏なんていなかったので拒まなかった。いや、彼氏がいても拒まなかっただろう。その頃にはもう、私と和志の不毛で甘美な関係は必要不可欠なものにすら思えていて、最早互いに依存しているといっても過言ではなかったからだ。
だから未だに、私と和志は体を重ねている。

「あ、」
「どうかした?」
「水野からメールきてた」

私の同居人で親友の水野は、和志と同じ職場で働いている。和志とも仲が良いので、ついこの間も三人で飲みに行ったばかりだ。勿論、水野は、私と和志の関係なんて知らない。

「なんて?」
「夜ご飯間に合わないから先に食べてていいよって」

ほぼ毎日引き込もっているようなフリーターの私と違い、水野はいつも忙しい。最近では会えない日の方が多かった。仕方ないことではあるけれど、一人の夜は苦手なのだ。どうしようか。

「泊まってく?」

見透かしたように和志の腕が背後から伸びてきて私を抱きしめる。素肌に感じる体温が心地好くて少し笑った。

「んーん、帰る」

夜ご飯に間に合わないだけで、帰宅できないとは書かれていない。適当に夜更かししていればそのうち帰ってくるだろう。

「送る」
「いらない」

忘れてはいけない。不服そうな顔でわざとらしく私を睨んでくる和志は、職場で一番人気の美人な彼女がいるのだ。私と噂になったり、あまつさえ関係が暴露されてしまえば致命傷だ。修羅場に巻き込まれるのは遠慮願いたい。

「またね、姉さん」
「ん、また」

細心の注意を払ってマンションを後にする。犯罪者の気分だった。

【スウィート・メランコリィ】




―――――――――――

あなたがすきなわけじゃない。あなたをきらいじゃないだけ。なんて。


2012/12/02 kyo

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06/27(Mon) 22:50
SSS

そんな、どうでもよさげに触れないでよ。
泣きたくなるじゃないか、なんて。

わかってる。

これは、ただのわがままだ。
彼を好きになってしまったあたしの、馬鹿げたわがままなのだ。

勝手に好きになって、勝手に泣いて。
勝手に触れて、勝手にときめいて。
あたしはなんて身勝手なんだろう。
そうして、勝手に彼を想って、勝手に彼に沈むのだ。



ああほら、もううごけない。



<彼とあたしとみずたまり>
(雨が隠してくれないかしら、なんて)

―――――――――――――――――――――

本能では知っていて。
でもどうか、理性では気づかないで。

せめて、あたしが好きだって言うまでは。
或いは、あたしの想いが叶うまでは。


という哀願めいた諸事情。

2011/06/27 kyo

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06/23(Thu) 01:11
SSS

そんなつもりはなかったんだと思う。
たぶん気付かれてはいないんだとも思う。


ただ、感づかれている様な気はしている。


どうしたらいいかわからなくて、笑えなくなりそうで。
彼の前で泣くことだけは避けたくて、非常階段に逃げた。

彼が言ったことを反芻する。

「             」

どうしようもない衝動と、どうにもできない想いが込みあげて、視界が滲んだ。
泣きたくなんかなかったのに。


嗚咽混じりに目を閉じたら、あたしの好きな彼の横顔が浮かんで、消えた。



<彼とあたしと曇天仕様>
(せめて空が青ければ、なんて。ばかみたいね)

―――――――――――――――――――――

ねえ、本当は知ってるの?
だからあんなこと言ったの?
なんて。

好きになってごめんね、



という感傷めいたオハナシ。

2011/06/23 kyo

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12/22(Wed) 00:24
SSS

出逢いを。
撫子は張りつめた糸のように固い声で問いかけた。

「出逢いを、悔いていらっしゃいますか」

表情は声同様固く、その瞳の黒曜石は悲しいほど真っ直ぐに大和を見つめている。
その様は、雨に濡れた子犬が傘を差し出した人間を見上げるようにも、捨て猫を拾う者を偽善だと罵っているようにも見えた。

「愚問だな」

大和は微かに怒りすら含んだ眼差しを撫子へと送る。

「貴女との出逢いを悔やめと言われたら、俺は生涯を呪う。この世に生を受けたことを恨む」

撫子のすべらかな頬を包むように、大和の両のてのひらがそっと添えられた。
不安と期待に揺れ、滲みつつある黒曜石を、同じ温度で見返すと、いとしさをぶつけるように激しく、けれど霧雨のように静かに大和は言った。


「出逢えて、好かった」



<罪色逢瀬>
(終焉すら怖くない。あなたさえいれば)

―――――――――――――――――――――

和製ロミジュリを目指してみた。
大和と撫子ってよくないですか(だ ま れ

2010/12/21 kyo

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11/11(Thu) 01:15
SSS

「そんなに死にてえなら死ねばいいだろ。誰も邪魔なんてしやしねえよ」


もういや。死んでしまいたい。
嗚咽混じりに、けれどはっきりとそう叫んだ私の背に氷色の言葉を投げつけたのは、私の大好きな、私の大切な、私の親友である彼女でした。


ねえ、貴女までそんなこと言うの?

「……酷いこと言うのね」

体の奥の方から込みあげてくる闇色に勝てず、私はそんな言葉を吐きました。

「あ?」
「死にたいなら死ねばいい、なんて。ほんきで死にたいひとが死にたいなんて口にしないの知ってるくせに。私が死ねないの知ってるくせに!私が助けてほしいって知ってるくせに!!」

叫んだ、というより、吠えた、という表現の方が正しい私のそれに、彼女は先程と同じ声で応えました。

「ハッ。酷いのはテメエの方だろうが」

私?
私の何が酷いって言うの。
弱さ?ずるさ?臆病さ?それとも別の何か?
私には悲しむことすら許されないとでも言いたいの?
衝動的に、私は彼女の方を振り向きました。
思い浮かんだ言葉をぶつけてやろうと思ったからです。
けれど、彼女を見た途端、私の喉は声を生み出すのをやめました。
否、出来なくなったのです。

「テメエのことを好いて大切だと思ってるオレの前で壊れたオルゴールみてえに死にてえ死にてえって繰り返しやがって。その度オレがどんな想いでいんのか、テメエ一度でも考えたことあんのかよ!」

すう、と。
彼女の頬を、透明な涙が伝っていきました。




<ひどいひと>
(テメエが傷付いたときにテメエだけが傷付いてるとでも思ってんのかよ)

―――――――――――

被害者は加害者であり、加害者は被害者である。
ほんとうにひどいのはどっち?

2010/11/11 kyo

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11/01(Mon) 21:38
SSS

彼はいつだって私のすぐそばにいるのに、いつだって私に愛を囁いてくれるのに、優しさを、祈りを、願いを、命を、安寧を、永遠をくれるのに、薄っぺらな一枚の硝子のせいで触れることができないのだ。
あんまり頭にきて、私は硝子を素手で叩き割った。
鈍い痛みも赤い液体も見ないふりで、ただただ彼に触れたい一心で手を伸ばした。

彼はもう、どこにもいなかった。



<夢見る少女は踏みにじられる>
(現実は少女を許さない)

――――――――――――――――――――――
もしも彼を愛したことが間違いだというのなら、この世界に正しいことなど一つもない。



二次元って究極の遠恋だと思うんだ←
液晶が退いたら触れられるのかっていうと、見えなくなるだけなんですよね。
それでも好きならもうそれでいいと思う。
好意に勝る想いなんてなかなか存在しないと思います。

2010/11/01 kyo

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10/30(Sat) 22:33
SSS

「壊したかったわけじゃねえよ。いつの間にか壊れちまってたんだ」

彼は淡々とそう言った。
そこにはなんの感慨も、ましてや感情もない。

「人間は勝手に壊れたりしないわ。玩具じゃないんだから」
「そうでもねえさ。人間ほど勝手に壊れたり乞われたりするもんもねえ。破壊と再生が繰り返されるなら、創造と絶滅だって同じだ」
「屁理屈の時間は終わったのよ、アベル」
「理屈を語る時代は終わったぜ、カイン」



<堂々巡りの創造主>
(明日がくるのは妄想だ)

―――――――――――――――――――――――
夜明けが来ない日はないが、未来がない日はあるってオハナシ。

2010/10/30 kyo

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10/30(Sat) 22:30
SSS

「理由なんているのかよ」

彼は不機嫌にそう言った。
その言葉の意味を理解できなくて、私は彼の背中を見つめる。
いつかと同じ温度の背をさらしたままで、彼は言う。

「俺がお前を庇うのに、理由なんているのかよ」
「え…?」
「確かに理由はあるぜ。俺はお前が好きで、大切で、だから庇った。けど、だったらわざわざ理由なんていらねえだろ」

よくわからない。
彼はいつもそうだ。私には到底理解できない難解な台詞を吐いては私を困らせる。

でも、私はそんな彼が好きだった。
今はもう手に入らないあの日の感情は、あの日の私は、確かに彼が好きだったのだ。


でも、もう今更だよ、畔。
私はもう、あなたを好きになれないよ。

だって、あなたは綺麗すぎたから。



<湖畔の恋慕>
(大切にできるはずだったナニかは、あっという間に消えてしまった)

―――――――――――――――――――――――
眩しすぎるのは駄目なのよ。
自分がどれだけ擦り切れているか思い知らされるから。

2010/10/30 kyo

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10/12(Tue) 23:27
SSS

もうどうすればいいのかわからなかった。
どこにいけばいいのか、なにをすればいいのか、もうなにもわからなかった。
行き詰り、途方にくれて泣いていた私の顔を覗き込んだ彼は、えらく不機嫌な顔をしていて。
そして、ふいに抱き寄せられた。

「泣いてる暇があったら甘えろや」

そう囁いてくれた彼の腕は、やさしくも力強かった。



<沁み入る温度>
(そこにいてくれたらそれでいいの。そしたらあたしはいきていけるから)

―――――――――――――――――――――――
どうかそこにいて、ときどきあたしをだきしめて。
そのぬくもりさえあれば、あたしはしあわせになれるのだから。



言われてみたい台詞ナンバーワンだなんて言えない←

2010/10/12 kyo

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09/21(Tue) 23:53
SSS

「嘘つき」

志乃は彼方にそう言った。
まるで子供をあやすような、優しい響きをもって。

「嘘なんてついてないよ」

困ったように首を振る彼方に、志乃は微笑んだ。

「嘘つきよ。彼方は嘘つき。絶対一人にしないって言ったくせに、こんな血みどろの檻の中に私を置いてったじゃない」

でもね、志乃は彼方を真っ直ぐに見つめた。

「私はそんな彼方が好きだったよ」


べしゃり、


くずれおちていく志乃に、彼方は泣きだしそうな顔で応えた。
その手に真っ赤な鈍色を握って。

「僕も好きだったよ、志乃ちゃん」



<嘘で固めたカラメルロマンス>
(すれ違ってすれ違ってすれ違って。
そうして漸く、僕らは永遠を手に入れた)

――――――――――――――――――――――
存在に名称をつけるのは僕らで、僕らに名称をつけるのも僕らだ。

10/09/21 kyo

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