季節イベント

□プロポーズ大作戦
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これからサッカーの試合を始めるなら、まずはウォーミングアップをするのが普通だろう。

何か大きなことをする前にその前哨戦があるのはどこの世界も同じことで。
つまり、それは恋愛にも置き換えられる。

付き合うまでの駆け引き?関係を発展させる作戦?
"付き合うこと"は恋愛においてのウォーミングアップに過ぎない。


恋愛は付き合ってからが勝負だ。








【プロポーズ大作戦】







本を閉じて、ドイツは天井を見上げた。
ガタイの良い彼は読書・お菓子作りと言った似つかない趣味を持っているのだが、今日読んでいた本はまた一段と彼に似合わないものだった。

それは、言わば恋愛の指南書である。

恋愛に奥手なこの青年は、自分にない知識を埋めるため本に頼ることが多い。
まして、彼の恋人はナンパ好きでスキンシップも積極的に行う人物なものだからどうにかして自分がリードする立場になれないかと日々模索する毎日なのだ。

勤勉な彼のこと、恋愛マニュアルを隅から隅まで読破し、付箋やしおりまで使い恋愛を知ろうとしている。

だがどうだろう?
マニュアル通りの人間ばかりがいるわけではないし、彼の恋人は何十冊の教科書があっても攻略が難しいイタリア人だ。
努力することに無駄なことはないと思いたいのだが、ドイツのその頑張りばかりは少々無意味なのでは?と言いたくなってしまう。

「ドーイツ!本読み終わった?」

「っうわぁぁぁぁああああああ!!イイイイイタリア来ていたのか!?」

「うヴェっ!?な、なんでそんな驚いてるの?あ…もしかして…、エッチな本でも読んでた〜?」

「なっ!?馬鹿なこと言うんじゃないっ!!」

「ドイツのムッツリスケベ〜!」

「イタリァァァァァ!」

「うわぁぁぁぁドイツやめてぇぇぇぇ」

彼が慌てるのも無理はない。
イタリアは男だが彼の恋人で、しかも現在の悩みの種だ。
読んでいた本のタイトルを見ればその悩みと言うのも一目瞭然と言うことだが…。

『人との付き合い方〜プロポーズ編〜』

なるほど、これは見せられない。
男の沽券に関わる問題だ。

ドイツはイタリアから手を離すとさりげなく本を引き出しの中に入れてごまかした。
イタリアはと言うとソファーの上に寝転んで「ドイツひでー」「ドSー」などと文句を並べながらジタバタと手足を動かす。

「何が酷いと言うんだ。そもそも今日は会う約束をしていなかっただろう。アポ無しで突然家に来るなんて…」

ドイツが腕を組みながらイタリアを見下ろすと、珍しく開眼したイタリアが不思議そうに頭を傾けた。

「なんで?だって俺、ドイツに会いたかったんだもん」

「…っ!///」

「好きな人にはすぐ会いたい。恋人なら尚更だよ。だから…えへへ、来ちゃったんだ」

頬を染めながら笑うイタリアが可愛くないわけがない。
ドイツには見つけることもできない愛情表現の言葉を並べ、常に彼の心を引き付け離さない。

付き合う前からこういった言葉を素で言うのがイタリアであったが、思えばその頃からドイツはイタリアの本心がわからず頭を抱える日々を送っていた。
恋人になってからもその悩みは深くなる一方で、しかもドイツの頭の中のマニュアルにはこのような時の対処法が書かれていないため、誰かを頼る以外この悩みを解消する方法はないのだ。

しかしこんな悩みを、誰に相談すれば良いか…。

ドイツにはその選択すらままならないようだ。

「あ、会いたいのはわかったがそれなりに連絡をしないと俺が家にいないと言うこともあるだろう」

「ヴェーそれもそっかー。今度からは気をつけるね」

「ふむ…わかれば良いんだが…………ってお前は何の準備をしている」

いそいそと荷物を整理していた彼にドイツはツッコミを入れる感じで尋ねた。

「え?お泊りセット」

「泊まることが前提なのかお前は!!」

「エヘヘ〜だってドイツん家すっごい綺麗だしカッコイイし居心地いいし…ずっと居たくなるんだもん」

「ずっと…?」

これは…プロポーズをできる流れではないだろうか…。
『ならずっと家にいてくれ』
いやいや、国だからそれは難しいか。
なら、『ここはもうお前の家だ』でどうだろうか。
待てよ、そしたら『ここってイタリア領なの!?』とか変な解釈をされそうだな…。
いっそ『この家にお前を縛り付けてもかまわない』…と言うのは…。
…………ああまた『ドS』だの『変態』だの言われそうだからやめておこう。

イタリアの何気ない一言にドイツはここまでを連想して結局何も言うことができなかった。

連想している間、考えている顔をしていたのだろうが、眉間にシワの寄ったドイツの表情が恐ろしいことになっていたせいでイタリアが涙目になって怯えていたことに彼は気づいていない。

「どうした?」

「ふヴェ…ドイツ怖い顔してたからそんなにお泊りいやだったのかなって…」

「べ、別に嫌ではない」

「ホント!?俺が泊まるの嬉しい?」

「………ま、まぁな」

「ひゃっほー!!隊長大好きであります!」

「なっななな!」

自分の感情に素直で、うれしくなったら飛びついてその喜びを表現するイタリアの突拍子な行動は規則正しく動くドイツにとって予想外や例外だらけだ。
今も突然のハグに戸惑いを隠せない彼は自分の手をイタリアの肩におくべきか、それとも腰に沿えるべきかで迷い宙に手を止めワナワナと震えている。

「はー…ドイツあったかーい…」

「!…寒かったのか?」

「あ、ううん!ちょっと外が冷えてたからね。家に入ってからはそこまで寒くないよ」

「しかし…お前指先が冷えて…」

イタリアが寒がっている…。
『俺が温めてやろうか』
なんて…

「言えるわけがないだろうッッッ!!!???」

「ギャァァァァァァドイツ締まってる!!痛い痛い痛い!!」

「す……すまん」

自分の台詞に鳥肌がたって思わず自分に抱き着くイタリアを思いっ切り抱きしめ返していたようで、ドイツはバツが悪そうに体を離す。

こんなに悩んでも関係が進まないのはとても辛いことだ。

思い切って言ってしまえば良いのかもしれないが、戦術や経済的な度胸が据わっている彼とって、こと恋愛においては極端にヘタレてしまうことを、ここまでの会話を見るだけでもおわかりいただけるであろう。

彼に今必要なのは、アドバイスをくれる存在。

自分の知識だけではどうにもならない時こそ誰かを頼るべきなのだ。



「明日辺り…アイツのとこに行ってみるか…」



「ん?どこ行くの?」

「いや…なんでもない」

アドバイスを求める相手を心に決め、小さな決意を胸にドイツは頷いた。



彼の苦労は、ここからが序章だと言うのに…。





続く
 

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