小説

□たまには甘えたくなる時だってあります
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 リビングまでウィリアムを運び、ソファーに座らせてスーツを脱がす。

 グレルはスーツの上着をハンガーにかけると、不意に背後から髪を引っ張られた。いったい何だと思いながら振り返れば、そこには不満げな表情で佇むウィリアムがいる。

「約束は?撫でてくれないのですか?」

「するわヨ。ちゃんと撫でてあげるからちょっと待ってて。スーツについた誇りを取らないと明日が大変でショ?」

「私は嘘つきは嫌いです」

「……まったくもう」

 グレルは作業を中断すると、ウィリアムの腕を引いてソファーの横に座らせる。ウィリアムは頭を横に寝かせ、グレルの太股に乗せた。

「……お待たせ、ウィル」

 グレルは優しくウィリアムの頭を撫でる。

「グレル」

「……ん、なに?」

「最近太りましたか?太股が以前よりも太くなっていますね」

「……アタシ、怒るわよ?」

 ぷるぷると拳を握るグレルだが、そんなことなど気にせずに起き上がったウィリアムはグレルに抱きつく。

「……レル……グレル……」

 いつもなら自分からウィリアムに甘えている筈なのに、今日に限って何故か立場が違うことにグレルは違和感を感じる。

「林檎でも食べる?」

 つい先程に雑誌を見ながら食べていた林檎を思い出せばテーブルから小皿を引っ張った。

「……グレルが食べさせてくれるのなら」

「ええ、食べさせてアゲル♪ハイ、あーん」

 つまようじに刺した林檎をウィリアムの口に運んであげるのだが、何が不満なのかウィリアムはそっぽを向いた。

「ウィル?」

「口移しがいいです」

「あらあら、今日のウィルは甘えん坊さんネ」

「………」

「そ、そんな顔しないでちょうだい!何だかウィルらしくないワ!」

「私らしいとは?」

「え、えとー……。それはー……ウィル?」

 普段は見せないなんとも表現しづらい表情と答えづらい質問にグレルが戸惑っていると、先程から気になっていた臭いにまさかと思って眉を潜めたは鼻をクンクンさせてウィリアムの身体の臭いを嗅いだ。

「まさかとは思うケド……。ウィリアム、お酒を飲んだでショ?」

「いいえ」

 微かに頬を染め、明らかに酔っ払っているのに首を横に振り、ウィリアムは否定をする。

「嘘よ。お酒の臭いがプンプンするんだから」

「いいえ。それはきっと貴方の香水の香りです。早く林檎をください」

「ウィル」

「………」

「……わかったワ。じゃあ、口を開けて」

 仕方なく渋々と頷くグレルは肩を落とすと林檎を口に含み、ウィリアムの顔に近づく。

「………」

「ウィル?」

 まったく反応がないウィリアムを不思議に思ったグレルは顔を覗き込むと一一一。

「……すー……すー……」

「ちょ……」

 ウィリアムは爆睡していた。

「もう、心配して損しちゃったじゃない……」

 疲れたように溜息を漏らすグレルは眠っているウィリアムを抱え上げて寝室へと運んだ。


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