過去拍手小説

□魂の行方
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 グレル・サトクリフは突然謹慎中にも関わらず、仕事で忙しい私を呼び出したかと思えばなんともくだらないことを聞いてきた。

「グレル・サトクリフ。それを知って貴方はどうするつもりです?」

 私の言葉に普段はあまり見せない複雑な表情を浮かべ、グレル・サトクリフは視線を逸らす。

「ただの興味本意よ?アタシたち死神は言われた通りに魂を審査して回収するだけ。それ以上のことなんて知る必要はないけれど、管理課のアンタなら知ってるんでしょ?」

 ただの興味本意。

 呼び出された理由が本当にくだらない内容なら、迷わず私はこのグズを殴っていただろう。

 だが、今回の場合はそうは思わず、寧ろ呆れて何も言う気にもなれなかったが……。

「ウィル……」

「貴方と違い、私はとても忙しいことぐらいわかるでしょう?それに、貴方が回収した魂は既に汚れている。救いようのない魂の行き先など、頭の悪い貴方でもわかるはずです」

 私の言葉を理解したのか、僅かにグレル・サトクリフの表情が変わる。それは言葉では言い表せないほど後悔と悲しみで自分を責めているようにも思えた。

「…………そうよね。ごめんなさい、忙しいのに無理に呼び出しちゃって。お仕事、アタシの分まで頑張ってね?」

 短い沈黙の後に帰ってきた声に、私は振り向きもせずにドアノブに手をかける。

「……ですが、たとえ汚れた魂を神がいつまでも見放すほど厳しくない。時が過ぎ去った頃には、新しい地に芽が生まれる。我々はその芽を時が来た頃に再び回収するだけです」

「ウィ、ル……?じゃあ!じゃあ……あの女は……!マダムは……!」

「私は仕事に戻ります。これ以上ここにいると貴方のせいで今日も定時で上がれなくなってしまいますから」

 グレル・サトクリフが何か言う前に、そのまま私は部屋を出ていく。

 去り際にあのグズが「ありがとう」などと言いながら赤いコートを大切そうに握り締めていたが、私は気にせず扉を閉めた。

「さて、アレの謹慎が解けるまで溜まった仕事を終わらせますか」

 眼鏡を押し上げ、また当分は顔を合わせなくなるクズの顔を思い浮かべた後で仕事場へと向かった。



end.

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