過去拍手小説
□不安を安心にさせる貴方の温もり
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あの告白から一週間が過ぎた。
『本気でウィリアムのことが好きなの!だから、だからアタシと付き合って!お願い!!』
『いいでしょう。貴方がそこまで私のことを想うなら、付き合ってあげます』
意外とすんなりと返された言葉。
その日からアタシとウィリアムの交際が始まった。
でも、ウィリアムの口からまだ聞いていない言葉がある。それに、手だってまだ一度も繋いでもらったことがない。
たまたま廊下に並んで歩いていた時に、さりげなくアタシは手を繋ごうとした。だけどウィルはその手を振り払ってしまったのだ。
「……ウィル……」
アタシの胸の中では不安がどんどん溜まっていく。
気が付けばアタシの瞼から、生暖かい涙が零れ落ちた。
「……うっ!」
泣いちゃいけない。それくらいわかっているのに我慢できないアタシは声を出して泣いてしまう。
「……っく!うっ……ぐすっ!ウィリ、アム……っ」
突然、死神図書館の出口扉が開き、思わずアタシはその方向へ顔を上げた。
「……あ」
「グレル・サトクリフ?」
予想外のウィリアムとの鉢合わせに、瞼から流れた涙を拭くことすらアタシは忘れてしまう。
「勉強ですか?どうやら、明日の天気は荒れそうですね」
ウィリアムは泣いているアタシに気付いているはずが何も言わない。
「……そう、かもしれないわネ」
背中を見せて涙を拭くアタシは気分的に何も言い返せず、早くここから出ようと扉へ向かう。
ウィルとアタシは付き合っていることには間違いない。
それはただたんに恋人同士で“付き合っている”のではなく、仕方なく“付き合っている”に過ぎないかもしれない。
結局アタシは一方的にウィルへ想いを寄せていただけで、アタシのことなんてこれっぽっちも思ってくれていないのかもしれない。
「グレル」
ウィリアムの傍を通り過ぎた直後に名前を呼ばれたような気がしたけど、気のせいだと決め付けてアタシは扉に手をかける。
「グレル」
でも、ウィルの声は間違いなくアタシの耳に聞こえた。アタシの手を掴み、まっすぐ瞳を合わせて見つめてくる。
「どうしたのです?グレル。貴方らしくない」
「……え?」
初めて名前を呼んでくれた。それにも驚いたけど、アタシが一番に驚いたのはウィリアムがアタシを抱きしめていたことに対してだ。
「具合でも悪いのですか?」
ウィルの手がアタシの頭を優しく撫でる。暖かくて、大きな手がくすぐったいほど気持ちいい。
「……ウィル……アタシのこと……好き……?」
唇が震える。答えを聞くのが怖くて怖くてアタシの声は途中で小さくなる。ウィルの顔を見るのが怖い……。
「好きですよ」
「じゃあ、どうしていつもアタシを避けるの!?仕事中ずっとずっと構ってくれないじゃない!休憩中だって……っく!」
気が付けば泣きじゃくりながらアタシはウィルの服を掴んだ。
「嫌なら嫌だってあの時そう言えばよかったのヨ!そうすればアタシは気持ちがスッキリして別の男を探し一一一んっ!?」
ウィルの唇がアタシの唇に触れる。
その瞬間、一気にアタシの涙はピタリと止まった。
「仕事中にこんなことをすれば始末書確定でしょう?プライベートなら存分に貴方と一緒に過ごせますが、最近は何かと忙しく休暇も取れないですからね」
背後でカチャリと音が響く。ウィルが出入口の扉に施錠をしたのだ。
「ウィ、ル……?」
「グレル。私はこの通り素直に想いを伝えることが苦手です。……貴方の気持ちにも、気づくことすらできず不器用なこともあります」
優しいウィルの温もりと言葉がじんわりと胸に染み込む。
「……ですが、これだけは理解してください。私は貴方のことを愛しているということを」
「……ええ、わかったワ。アタシもウィルのこと愛してる!」
ずっとずっとこの温もりが欲しかった。
貴方の温もりが。
アタシの心を安心させる一一一。
end.