過去拍手小説
□待ち合わせ
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一一一寒い。
グレルは心の中でそう呟くとカタカタと身を震わせ、自らの息を両手に吹きかけ擦りあわせた。
「……まだかしら?」
ウィリアムを待って数時間は経つ。
別に約束などしていない。グレル自ら一緒に帰ろうと口約束をしただけだ。
待ち合わせ場所は人間界のとある公園。ベンチに座りながらゆっくり会話を楽しもうと思ったのか、予想以上に今日の夜は気温が冷えていた。
刻々と過ぎていく時計を眺め、孤独感を感じたグレルは俯いてしまう。
「お待たせ致しました」
「ウィリアム!」
不安だった表情はいつの間にか安堵へ変わり、笑顔になる。グレルは嬉しそうにウィリアムの傍へ駆け寄った。
「まったく。待ち合わせ場所の目印くらい決めたらどうです?ただ“公園で待ってる”と言われ、貴方を探すのために無駄な時間を費やしてしまったではないですか」
疲れたように肩を落とすウィリアムは軽く息を吐く。
「でも、ウィルはアタシを見つけてくれたじゃない。諦めずに、ちゃんと待ち合わせ場所に来てくれた」
「……後々、勝手に泣かれて面倒ごとを引き受けたくないだけです」
ウィリアムはボソリと呟くとグレルの身体に自分が着ていたコートをかけた。だが、その言葉はハッキリとグレルの耳に入り、頬を膨らませてムッとする。
「ちょっと、一緒に帰れなかったくらいで泣いたりしないわヨ!」
「そうですか?では、次回からは何も言わずに帰ることにします」
そう言って先に歩こうとする様子を見て、グレルは慌ててウィリアムの腕に抱き着いた。
「……そ、それは嫌っ!!」
ウィリアムは振り向くと、口には出さないが無表情のまま「離しなさい」と訴えている。
だが、今でも泣きそうなグレルの表情にその訴えは頭から忘れられてしまう。
「冗談ですよ」
「……アンタの冗談はたまに本当に思えるから、信じられないわ」
「まったく」
疑いの眼差しを向けるグレルの腕ではなく、手を掴む。
すっかり冷えきった手の温もりがウィリアムの革手袋にじんわりと伝わり、ずいぶん長いこと待ってこの場所にいたことがわかる。
「……な、なに?どうしたの?」
驚きの表情を浮かべるグレルは何かされるのではと、ビクビクしながら警戒していた。
それを面白そうな目で見るウィリアムは自分が嵌めていた黒革手袋を外して、半ば押し付けるかのようにグレルへ渡す。
「明日の待ち合わせ場所は私が決めます。……いいですね?グレル・サトクリフ」
もちろん有無は言わせない。
その気持ちを読み取ったグレルは嬉しそうに頷くき、ウィリアムの温もりが残る黒革手袋を嵌めた。
end.