小説
□些細な言葉でも気にする…乙女心
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死神派遣協会本部。
その日、本部では恒例行事かのように死神達が人間界へ魂の審査、回収作業へ出掛けていた。
「はい、ウィリアム。これが今日の報告書よ」
「では、次はこれをお願いします」
魂を審査、回収しては報告書を書いて提出。再びリストを渡され審査、回収……と、目が回りそうな同じ作業を繰り返し続ける派遣員グレル。
上司でもある管理課のウィリアムは報告書を受け取るなり、すぐまた新しいリストをグレルへ手渡した。
一一一ちょっと!!アタシの仕事はもう終わったんでショ?いい加減に帰らせてよ!
……と。いつものグレルなら、ここで煩く怒鳴り散らすはずだ。
しかし、リストを受け取ってからグレルは一向に怒鳴る気配すら見せない。不審に思ったウィリアムは報告書から目を逸らし、顔を上げた。
「グレル・サトクリフ?」
「……ま、これくらいの数なら、たいした時間は係りそうにないわネ」
やや遅れ気味でか返ってくる返答。
気のせいかグレルの顔色が少し悪い。
「グレル・サトクリフ?」
「……え?何か言った?」
リストを見るのに集中していたのか、またしてもグレルの反応が遅れる。
ウィリアムは表情には出さないが、グレルの表情を伺いつつも、首を横へ振った。
「……いえ、私の気のせいでしょう。では、よろしくお願いします」
何があったかはわからないが少しでも仕事に意欲が沸いているのなら有り難い。と、書類を片付けるために椅子から立ち上がる。
「わかったワ。任せてちょうだ一一一っ!」
「グレル・サトクリフ?」
すれ違う瞬間、突然何の前触れもなくグレルは倒れ込む。間一髪で無意識にその身体をウィリアムは受け止めた。
一一一顔色が悪いな。
頬にかかった髪の隙間から見えるグレルの表情は近くから見ればよりいっそうに顔色が悪い。
「……ウィ、ル……」
意識を取り戻したのか、弱々しく名前を呼ぶグレルが腕を引っ張る。
「どうしました?」
何を口ずさもうとしているのか、口元へとウィリアムば耳を近づけようとした時だ。
「んっ……?」
ウィリアムの唇に柔らかい感触が伝わる。
それはグレルの唇だ。
「……ンフッ♪充電完了」
不意討ちのキスを仕掛けたグレルは唇をペロリッと舐めると、珍しくキョトンとするウィリアムを見てくすりと笑った。
「やっだ!ウィルったら、その表情かっわい一一一痛っ!!」
鋭い蹴りがグレルの頭を直撃。沈み込む頭をウィリアムの足がグリグリと踏みつける。
「さっさと仕事に行きなさい。わかりましたね?」
「わ、わかったわヨ!!蹴らなくてもいいじゃない!」
文句を口ずさみながらグレルは執務室を駆け出していった。
「まったく」
その姿を呆れた表情を浮かべて見送るウィリアムだが、何故か腑に落ちない部分があり、気になって仕方がなかった。
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