小説
□臆病な恋人。自らの幸せよりもアナタの幸せを願います
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薄暗い静かな夜。
ほのかな光にライトアップされ、硝子の中に飾られた純白のウェディングドレスが美しく輝く。
「ンフッ。綺麗なドレスね。赤いドレスだったらもっと良かったのに。……ねぇ、ウィルもそう思うでショ?」
屋根の上から羨ましくドレスを眺め、派遣員不足の理由でお仕事をすることになったウィリアムへ、上機嫌なアタシは声をかける。
「……何がです?」
リストから一旦目を逸らし、冷たい瞳でアタシを見詰めてくれる。
「ほら、あそこにあるドレスよ。ンフッ。あーんな、ドレス。一度でいいからアタシも着てみたいワ。……それでね、結婚式を挙げるの」
いつまでも見詰められ、ゾクゾクしながらアタシはついさっき見ていたウェディングドレスを指差す。
もちろん、お相手はウィリアムよんっ。……なーんてことを、猛烈アピールでアタシは伝えようとしたら一一一。
「あのドレスを?一生無理でしょう。似合うわけがない」
「………え?」
ウィルの言葉に、針でも刺されたようにアタシの胸がチクチク痛む。
思わず素の表情になるアタシはドレスからウィリアムへ視線を向けた。ウィルはリストを見ることに集中しているからか、アタシの様子に気付いてくれない。
長い付き合いからウィリアムの性格を一番に理解しているとアタシは思ってる。
だから、いつもウィルが話す言葉は本気なのか冗談なのか、僅かな態度と仕草でなんとなくわかった。
ウィリアムが今口にした言葉は……嘘がない。
「……ウィ、リアム。あの……っ」
一一一ねぇ、一生無理ってどういうこと?
一一一それはアタシが“男”だから?
駄目。どの言葉もアタシの口から出てこない。消え入りそうなアタシの声はウィリアムの耳に届いていなかった。
「……そ、そんなの!着てみなくちゃわかんないでショ?」
その場で聞けば良かったのに、何故かアタシは強がってしまう。
「着る以前にわかりきっていることです」
リストから目を逸らすことなく、眼鏡を押し上げたウィリアムはハッキリとそう言った。
言葉には躊躇いも迷いもない。
「貴方にアレは似合わない。……さ、本部に戻りますよ?グレル・サトクリフ」
さっさと去っていくウィリアムの言葉が、アタシの胸に止めを刺す。
一一一何もそこまで言わなくてもいいじゃない!!
言い返す言葉はあっても、声に出すことができないアタシは自分自身に腹を立てる。
「……っ。胸が、痛い……」
いつもはどんな言葉を言われても平気な筈なのに……。
アタシは自分の胸元に手を当てた。
針よりも鋭い刃物で刺されたかのように、いつまでも胸がズキズキと痛む。
一一一いっそのこと、本当に刺してほしい。そうすれば一瞬で楽になれるのに……。
少し遅れて、やっとのことで動いた足を動かすアタシはウィリアムの後を追った。
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