小説
□それは微かな苛立ち
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些細な事で悪魔と嫌々ながら手を組み、上から与えられた仕事を片付けた。
多大な被害を少しでも防げるなら…そう思えば悪魔が側にいても少しは堪えられる。
「…んもうっ!セバスちゃんったら!」
隣で煩く喋るグズ派遣員。
元はといえばコレのせいで持ちたくもない関わり合いを持ってしまった。
「さあ、帰りますよ?グレル・サトクリフ」
これ以上ここにいては今日も定時で上がれなくなってしまう。
その意味を込めての言葉を放ったつもりだ。
「……わかったわヨ。じゃあね、セバスちゃん!名残惜しいけれどまたアナタに会いに来るワ!」
「結構です」
「あーん、もう!つれないんだからぁん!別に照れなくてもいいじゃない?」
このグズは、次から次へとお喋りを……。
「グレル・サトクリフ」
「わかったわヨ……。そんなに怒らなくてもいいじゃない?あ、もしかして嫉妬とか?冗談よ、冗談!さ、帰りまショ?ウィリアム」
私が嫉妬?
馬鹿馬鹿しい。
ようやく帰ることができ、私は溜息を漏らすと先に歩き出した。
「グレルさん。お忘れ物がありますよ?」
「忘れ物?アタシは別に忘れ物なんか一一一!?」
嫌な予感がして私は振り向く。
一瞬の出来事だ。
グレル・サトクリフに害獣は口づけをした一一一。
「……では、これ以上坊っちゃんに迷惑をかけたくありませんので、今後は絶対に“坊ちゃんの前では”姿を現さないでくださいね?グレルさん」
この悪魔はいちいち勘に触る言葉を……。
害獣が一礼をして立ち去る瞬間、私と目を合わすなり微かな笑みを見せた。
まぎれもなくあの害獣は私を一一一まったく、考えるだけ腹立たしい。
「……セバスチャンが……アタシに……した?」
ふらつきながら歩き出すグズはまるで魂が抜けたような顔をしていた。
「グレル・サトクリフ。本部に戻ったら早急に書類を仕上げますよ」
「……アタシ……、夢でも見てるのかしら……?」
「聞いていますか?グレル・サトクリフ」
「ウィル」
二度目の呼びかけでようやくこちらに顔を向けるが、心ここにあらずといった顔だ。
「……ねぇ、ウィル。アタシのこと殴ってくれない?」
「………」
一一一ドゴォ!!
「いっだーい!殴るなら顔以外にしなさいヨ!」
「だったら最初からそう言いなさい」
「……でも、嬉しい!だって夢じゃないんだもの!」
「………」
一一一バキィ!!
「いっだーい!何するのよ!?」
今のは無意識に足が出ただけ……。
別にあの害獣に苛立っているわけでもなく、このグズに腹を立てたわけでもない。
そう、ただ無意識に手が出ただけだ。
「ちょっと!ウィリアムってばぁ!?」
*end*
続きもの『言葉とは裏腹に、行動が素直過ぎて』
(2010/04/28.改訂)